あるキング

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2012年8月15日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。先日新聞に載った本書の広告に「全面改稿(大幅改稿だったかも?)」の文字が躍っていた。何の義務も強制もないのに、「これは読まねば」と思って書店で購入した。

 山田王求という、ある天才野球選手の生涯が綴られた物語。王求の両親は、仙醍キングスというプロ野球チームの熱烈なファンで、「王(キングス)に求められる」という意味で「王求(おうく)」と名付けた。そして、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長する。その過程が、〇歳、三歳、十歳、十二歳…と、王求の成長の節目ごとに章を建てて描く。

 広告にも裏表紙にも「いままでの伊坂幸太郎作品とは違います」と書いてある。しかしそれは、単行本の出版時に、多くの読者が思ったことでもある。王求の周囲には、魔女やら四足の獣やら謎の男やらと、得体の知れないものがチラチラと登場する。
 それまでは「パズルのピースがピタッとハマる」感じだったのに、この得体の知れないもののために、この作品は何となく「不安定な感じ」なのだ。インタビューなどで著者自身が、この作品から意図的に変えた、という主旨のことをお話になってもいる。この文庫本では、そこをセールスポイントとしたらしい。

 そうした出版サイドの思惑に反することになるが、私は本書は単行本と比較して「それまでの伊坂作品」らしくなったと感じた。それを確かめるために、本書を読んだ後に、突き合わせるように単行本を再読してみた。それで主には、シェイクスピアの「マクベス」に関する話題が追加されていることが分かった(そのために私は「マクベス」まで読み直してしまった)。魔女は「マクベス」にも登場する。これで魔女の得体が少し知れたので、不安定感がぐっと下がったようだ。

 また「文庫版あとがき」で著者が、「もう少し分かりやすく」と考えた、と書かれているが、そのために「マクベス」以外にも、実に実に細かい改稿がされている。伏線や気の効いたセリフなども盛り込まれた。まさに「それまでの伊坂作品」のように。私は、この文庫版の方が好きだし、おススメもする(☆も3つから4つに増やした)。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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10つのコメントが “あるキング”にありました

  1. チャウ子

    YO-SHIさん、こんにちは。

    私もこの作品は伊坂さんらしくないなと感じました。
    いつもどおりクスッと笑える箇所は多々あったのですが。

    今回YO-SHIさんの書評を読んで納得。
    「黒伊坂」ですか、なるほど!

  2. YO-SHI

    チャウ子さん、コメントありがとうございました。

    今回は伊坂さん自身も、今までとは違ったモノを、
    という意識があったのかもしれません。ちょっと
    他の作品と違いましたよねぇ。

    「黒伊坂」「白伊坂」は、私のオリジナルではなく、
    ネットをさまよううちに目にしたものなんですが、
    伊坂作品を表現するのにとても役に立つ表現だと
    思います。
    要所で登場する獣と女は何なんでしょうね。
     

  3. おりーぶ

    YO-SHIさん

    こんにちは、はじめまして

    私もつい最近この本を読んだのですが・・・
    今まで読んでた伊坂テイストからかけ離れたものだったので
    読後もうまく自分で消化できなくて、感想がまとまらず
    結局レビューを断念しました。

    黒と白なら・・・私はやっぱ白がスキ(笑)

  4. えぐ

    YO-SHIさん、はじめまして。
    確かに、黒伊坂と白伊坂は便利ですね。わかる×2って感じですし。
    今までの作品で黒伊坂になるのは、「ラッシュ・ライフ」、「グラスホッパー」辺りでしょうか?

  5. YO-SHI

    おりーぶさん、コメントありがとうございます。

    黒と白なら..白が好き、私もそうです。
    読んでて楽しい方がいいですよね。
    ただ、黒と白のうまい配分、っていうのも
    あると思います。
    私が読んだ中では「ゴールデンスランバー」と
    「魔王」がそんな感じです。

    —–

    えぐさん、コメントありがとうございます。

    「グラスホッパー」は登場人物に暗さがないのが
    救いですが、話は「黒」ですね。
    「ラッシュライフ」も人の死の扱い方が「黒」かな。
    白は、「チルドレン」「陽気なギャング~」あたり
    でしょうか?
     

  6. おりーぶ

    YO-SHIさん

    確かに!
    「魔王」も「ゴールデンスランバー」も絶妙な配分具合ですよね。

    後味の悪いラストに「何とかならないもんかねぇ」とボヤきつつも、
    すこーしだけ見える明るい兆しに感動させられて印象に深く残ります。

  7. えぐ

    YO-SHIさん

    白に挙げられている2作品は間違いないですよね。
    あと「終末のフール」も私は白かと。

    そして、確かに「魔王」から「ゴールデンスランバー」をはさんで
    「モダンタイムズ」も底流に流れるものが黒ですね~。
    私は特に「ラッシュライフ」が怖くてすぐ思い浮かんでしまったんですが、
    本当の意味で怖いのは「モダンタイムズ」かもしれないですね。

  8. YO-SHI

    おりーぶさん、コメントありがとうございます。

    ハッピーエンド、とは言えない結末の物語が多いですね。
    「そんなにうまくは行かないよ。」それでも何とかやって
    きましょうよ、ってことかなと思っています。

    —-

    えぐさん、コメントありがとうございます。

    この世のものでないお化けよりも、この世のシステムの方が
    よっぽど怖い、ってことですね。
    「魔王」から「モダンタイムス」に続く物語は、何らかの
    メッセージ性を感じます。読者に「考える」ことを訴えて
    いるようで。
     

  9. るるる☆

    こんにちは!
    乙一さんも黒乙一と白乙一(あるいはグレー乙一も)あるのですが、
    確かに伊坂作品もそうですね!!
    私は読んだ時は「白」作品の方が好きでしたが、

    今年読んだ伊坂作品で何が一番良かったか・・と振り返ってみた時に(マイベストの準備中~)
    心に印象深く残っていたのが
    「モダンタイムス」や「グラスホッパー」や「ラッシュライフ」なんですよね~。

    読んでる時はきっとしんどかったのか・・「好き」とは言えなくても
    なんか心には深いインパクトを残してくれるのが伊坂さんなのかもしれません。

    この本も図書館で予約してみました。
    今年中には読めないと思うけど・・!

  10. YO-SHI

    るるる☆さん、コメントありがとうございます。

    そうなんですよ。心に残るのは「黒」っぽい方。
    ストーリーも覚えているし、それにシーンが思い浮かぶんですよね。
    例えば..拷問のシーンとか。決して「好きな」シーンではないんですが。

    るるる☆さんの「マイベスト」楽しみです。
     

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