やればできる まわりの人と夢をかなえあう4つの力

書影

著 者:勝間和代
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2009年12月3日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者が、香山リカさんの「しがみつかない生き方」の第10章「<勝間和代>を目指さない」への反論書と自ら言っている本。「しがみつかない生き方」のレビューは8月に掲載した記事にも関わらず、現在もこのブログの人気記事ランキングの第1位であり続けている。Googleで「しがみつかない生き方」や「しがみつかない」と検索すると、けっこう上位にリストアップされるので、そこを経由して来られる方がたくさんいらっしゃるためだ。

 本書の発行の前に、アエラ10月12日号に「勝間和代×香山リカ 激論2時間」という6ページの記事が掲載された。ドクロマークのジャケットを着た香山リカさんが勝間和代さんに執拗に絡む、といった図式の記事。まぁ香山さんがヒール役を演じて絡んだにも関わらず、議論はあまりかみ合っていない。
 ただ、香山さんが「<勝間和代>は成功者のアイコンとしてカッコ付きで使った」と言い、そのアイコンと勝間さん本人とは違う、という点は両者の共通認識になった。その他のことは勝間さんの冷静な受け応えが目立って、ヒール役の不利もあって香山さんには分が悪い展開だった。(アエラはここからデジタル雑誌で購入可能です)

 さて本書である。表裏の両表紙とプロローグとエピローグに「しがみつかない生き方」への答(反論書)と書く念の入れようだ。それにも関わらず、本書には「しがみつかない生き方」への答も反論も載っていない。そもそも「~目指さない」の答が「やればできる」では、ねじれの位置にある2つの直線のように交わるところがない。
 だからと言って、ただの売るためのコピーかと言うとそうではない。著者は香山さんやその著書にではなく、「しがみつかない生き方」の読者と世間に対して、反対の作用を及ぼすメッセージを発しているのだ。著者は「努力してもムダかも?今のままでもそこそこ幸せだし」という雰囲気が漂って、社会が努力を止めて停滞することを懸念している。そうならないように「いえいえ努力すればいいことあるって」という意味で「やればできる」とハッパをかけているわけだ。つまり社会に「ガンバリの天秤」があるとして、「そんなにガンバラなくてもそこそこ幸せなんじゃないの?」と「ガンバラない」方に少し傾いたので、「ガンバる」方にオモリを置いた、という感じだ。

 肝心の中身は、分かりやすさを念頭に丁寧にかみ砕いた文章を誠実に綴ったものだ。「しなやか力」「したたか力」「へんか力」「とんがり力」という、著者が創造した4つの力を表す言葉を紹介し、これを順に身に付けていきましょう、それぞれのステップはこうです、と実に丁寧に書かれている。
 また、巷にあふれる自己啓発書の多くのように「○○さえやれば」という特効薬はなく、4つの力を完成させるプロセスは「早くても数年、遅いと10年はかかる」と言うあたりは、誠実さの表れだ。「全員ができるとも言いません。」と言うのも至極当然のことだ。

 この「誠実さ」が、カッコ良さや分かりやすさや親しみ易さ(Twitterのつぶやきに見られるような)以上に、著者の人気の秘密なのだと思う。しかし罪深くもある。もちろん、これは著者の責に帰すべきことではなく、言いがかりに近いのだけれども。
 10年ガンバって思うような結果が得られない人はどうなるのか?著者が誠実なだけに「あの本のようにはいかないもんだ」とは思わず、「私の努力が足りない」と思ってしまうかもしれない。最後の方で「成果があがってない人は、それなりのやり方しかしていないのです。」とも書かれている。10年もガンバったのに..私のは「それなりのやり方」だったのか..

 香山さんの「<勝間和代>を目指さない」は、こういった形で心の病を抱えてしまう人が実際にいることを懸念して訴えているのだ。さて、こうした人は割合にするとどのくらいだろうか?おそらくごく僅かだろうが、香山さんはそこにも「生きた人がいる」ことに注目する。
 しかし「断る力」のレビューで書いたように、「リターン・マキシマイズ」を身上とする著者は、これをおそらく「取るべきリスク」と捉えるだろう。100%うまく行く方法などないし、うまく行く人がそれ以上にいて社会が活性化すれば問題なしだ。「うまく行かない人」の捉え方も重みも違う。だから議論は交わらないのだ。

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