シアター!

著 者:有川浩
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2009年12月16日 初版発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「有川先生、ありがとうございます。この本、とても面白かったです。」と、著者に会うことがあれば言いたい。本書は、12月16日に創刊された「メディアワークス文庫」というエンタテイメント小説の文庫の第1弾の8冊の内の1冊。公式ホームページを見ると、「図書館戦争の有川浩をはじめ、豪華作家陣オール書き下ろし」とあって、本書が目玉作品であることが分かる。

 物語の舞台はそこそこ力のある小劇団「シアターフラッグ」。登場人物はほぼ劇団の面々だけ。主人公は劇団の主宰の巧。彼は人見知りがひどく、子どもの頃はいわゆる「いじめられっこ」。遊ぶ相手は兄の司だけ。それも決まって、とっくに放映の終わったテレビのヒーローのソフビ人形でのゴッコ遊び。レッドが巧でブルーが司というのも決まっている。
 司が助けなければ、人生から脱落してしまいそうだった巧が演劇と出会い、人並みに生きていけるようになったことは司も嬉しく思っている。しかし、演劇で食えてはいない。好きな事をやっているのだから貧乏で当たり前、ということらしい。案の定300万円の借金を抱え、返せなければ劇団が潰れてしまう、という緊急事態から物語は始まる。

 劇団員は10人いるのだけれど、それぞれが抱える微妙な感情の揺れの描き方がうまい。おそらく練りに練ったセリフが、狙い済ましたように物語の随所で繰り出される。そのセリフを言ったりつぶやいたりした、その時だけはその登場人物が主人公になる。彼や彼女の物語が突然目の前に開けるのだ。
 むしろ巧だけがそういった感情の発露がなかった、と言えば言いすぎだろうか。本書は1人の主人公の物語でなく、巧を取り巻く20代の若者たちの群像劇だったのかもしれない。そして、司を入れて11人の思いはクライマックスの公演へと集約される。このスピード感、ハラハラ感は圧巻。 

 ところで、著者の有川さんのデビュー作「塩の街」は、第10回電撃大賞受賞作だ。「電撃」は、本書の出版社のアスキー・メディアワークスのブランド。著者の名を一躍有名にした「図書館戦争」シリーズもこの出版社から出している。
 第1弾の他の作家さんも似たような経緯の方が多いようだが、著者は飛びぬけた出世頭と言えるだろう。その出版社の新文庫創刊への書下ろしは、とても面白い作品だった。自分を世に出した出版社への恩があるとすれば、これは良い恩返しになったと思う。

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10つのコメントが “シアター!”にありました

  1. ジーナフウガ

    YO-SHIさんがここまで言う本ならば
    是非、是非読んでみたいです(=^・^=)
    昔、劇団にいたので感情移入も出来そう◎
    面白い本をススメテ下さってありがとうございます。
    即、買わねば!!!!!

  2. YO-SHI

    chaiさん、コメントありがとうございます。

    気になっていたのなら、ぜひぜひ読んでみてください。
    確かchaiさんは「植物図鑑」もけっこう楽しまれてましたよね。
    あの甘さは無いけれど、なかなか面白いですよ。

    —-

    ジーナフウガさん、コメントありがとうございます。

    劇団にいたことのあるジーナさんにはぜひオススメ。
    というか、劇団関係の人が読むとどうなのかなぁ、と
    それが聞きたいです。

    —-

    チャウ子さん、コメントありがとうございます。ご無沙汰です。

    チャウ子さんも読まれましたか!面白かったですね。
    いつもながらの有川さんの味でしたね。「劇甘」を思い浮かべる
    人もいるかもしれませんが、私はこのくらいの甘さ、青酸っぱさが
    好みです。
     

  3. spring-ring

    YO-SHIさんのレビューを読んだら、ぜひ読みたくなりました!
    有川浩は未読なんです。
    いろんな方のレビューでとても評判が良かったのでちょうど読みたいと思っていました。

  4. YO-SHI

    クワトロさん、コメントありがとうございます。

    ブログを読んでいただいてありがとうございます。
    気になった本があったら、読んでみてください。
    そして、よければ感想などを教えてくださいね。

    —-

    spring-ringさん、コメントありがとうございます。

    この本は楽しめると思います。是非読んでみてください。
    最初の有川作品としてもいいかも。激甘作品もあるのですが
    それは好みが別れるし、耐性がないとちょっとつらいので。
     

  5. たかこの記憶領域

    シアター! / 有川浩

    ぎゃぁぎゃぁ、半分壊れ気味(^-^;
    やっぱり有川作品はこうでなくっちゃ!と思わせる作品。ここ最近読んだ有川2作品では、さみしい思いをさせられたのでなおさら。キャラがたつ話をかかせたらうまいよね〜。
    で、小劇団シアターフラッグの黒幕、鉄血宰相の春川司。激萌……

  6. たかこ

    YO-SHIさん こんにちは。
    そうそう、この本文庫だったのですね~。
    図書館でタイトルだけで予約をしていたので、手にとってびっくりしました。
    有川さん、まさに恩返しというかいい仕事したと思います。
    だって、ものすごく面白かったですもん。
    手軽に読めて、こんなに楽しいなんて!
    (甘さ控えめがちょっと物足りませんでしたが…)( ;^^)へ..

  7. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    そうそう、最初から文庫でこれだけのエンタテイメント。お得ですねぇ。
    しかも、「ダ・ヴィンチ1月号」のインタビュー記事によると、シリーズ化
    される可能性が高そうですよ。これだけの個性豊かなメンツを揃えといて
    1冊だけではもったいないですもんね。
     

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