猫を抱いて象と泳ぐ

書影

著 者:小川洋子
出版社:文藝春秋
出版日:2009年1月10日 第1刷発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ダ・ヴィンチ」1月号で、2009年の「編集部が選ぶプラチナ本 OF THE YEAR」に選ばれた作品。著者の最高傑作との声もあり、さまざまなところで高い評価を得ているので、取り寄せてちょうど読んでいたところに、「プラチナ本~」の記事に接して、ますます興味が湧いた次第だ。
 昨年出た本で一番か?というと「そうだ」とは言い難いけれど、この悲しくも美しい物語と、静謐な音楽か詩のような文章は、他の本では感じることのない「特別な何か」を持っている。その意味では特筆すべき1冊であることは確かだ。

 主人公は「リトル・アリョーヒン」と呼ばれたチェスプレイヤー。アリョーヒンは実在のチェスのグランドマスター。主人公はそのグランドマスターになぞらえられて「リトル」を付けて呼ばれている。
 唇が癒着して生まれてきた彼に対し、祖母は「神様はきっと他のところに特別手を掛けて下さって、唇を切り離すのが間に合わなかったんじゃないだろうか」と言う。その神様が特別手を掛けて下さった部分が、類まれな記憶力と集中力。
 それを基にしたチェスの腕はまさに天才。何しろ彼はチェス盤の下にいて(つまり盤上を見ないで)、どこに相手が駒を指したかを感知し、刻々と変わる盤上の配置を正確に記憶し、どんな強いプレイヤーとも互角に戦ってしまうのだ。

 物語は彼が少年時代にチェスの手ほどきを受け、成長して「リトル・アリョーヒン」と呼ばれ、チェスを指す場所を変えて生きていく様を、時々の彼を取り巻く人々との関係を交えて悲しくも静かに描写していく。
 本書の芯には「優れたチェスの対戦が残した「棋譜」は、詩や音楽のように美しい」という確信がある。このあたりは、数式を美しいと言った「博士の愛した数式」と相通じるものがあると思う。
 そして、著者はその確信を、駒の動かし方しか知らないチェスの素人の私にも共有させることに、その筆力によって成功させた。私も、チェスの棋譜から美しさを感じてみたい、と心から思った。

この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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9つのコメントが “猫を抱いて象と泳ぐ”にありました

  1. マロンカフェ 〜のんびり読書〜

    小川洋子  猫を抱いて象と泳ぐ

    伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの、ひそやかな奇跡を描き尽くした、せつなく、いとおしい、宝物のような長篇小説。私は子供の頃に大好きな祖父から将棋を教えてもらって少しやっていた事があります。詰め将棋とか少しやってみたりもしたけれど、あまり向いていなかったみたいで、今では駒の動かし方を覚えている程度なんですが。(^^; 本書はチェスの魅力にとりつかれてしまった男性、いや少年のお話です。私はチェスは全くわからなくて、洋風の将棋みたいなものかな〜?とか将棋に比べると格段にお洒落度はアップするよな…

  2. 本屋に5時間

    お久しぶりです。雑誌「ダヴィンチ」でもこの本は紹介されていましたね。
    母いわく小川洋子さんの「ミーナの行進」は非常にいいらしいです。

    突然ですが、現在リンクしてくださっている「本のソムリエ」を閉鎖しました。
    ブログに投稿するために、本を読むっていう感じになってしまい、「本を楽しむ」という最大の目的を忘れてしまった感じです。
    最近本を読めていない状況です…
    自分の趣味が仕事になると嫌になるっていう人の気持ちが分かった感じです。

    このブログにはまだまだ遊びに来ますので、たまにコメントしますね~
    せっかくリンクしてくださったのにスイマセン。

  3. YO-SHI

    本屋に5時間さん、コメントありがとうございます。

    ブログの閉鎖の件、残念ですが了解しました。わざわざお知らせ
    いただいて、ありがとうございました。
    「ブログに投稿するために本を読む」という状態には、読書ブログを
    書いておられる方の多くが経験されているようです。私も一時期そう
    でした。そんな時は一旦止めるのも良い判断だと思います。

    私が「ペースを守ることが必要」なんて言ったことが、そういう状態を
    招いたのだとしたら、申し訳ないことをしてしまいましたね。

    これからも、コメントなどいただけると嬉しいです。 
     

  4. はりゅうみぃ

    YO-SHIさん、こんにちは。
    大変遅くなりましたが旧年中のお礼と新年のご挨拶に参りました。

    お恥ずかしい年末年始のドタバタで、今日までご無礼してしまいました事お詫びいたします。どうか、これに懲りずに本年も良き本読みのお師匠として、私の行く道を照らして下さいませ…。

    ちょうど、YO-SHIさんからコメントをいただいた頃この本の感想を書いているところでした。
    作者が徹底的に描く「ジャックインザボックス」、初めから終わりが予想できるのに、迎えるラストに力量の違いを見た、とか何とか書こうとしてたんですがその後放置。本日こちらを拝見して、すっかり満足してしまいました(笑)

    どうしたらこんな風に、深い洞察をすっきりと表現出来るようになるんでしょう…。
    本日も勉強させていただきました。

  5. YO-SHI

    はりゅうみぃさん、コメントありがとうございます。

    あけましておめでとうございます。
    病み上がりでまだつらいのではありませんか?

    本人としては、書きたいように書き散らしているだけで、
    あんまり褒められるとくすぐったいです。
    まぁ、記事を書くのにすご~く時間がかかっているので、
    そこんところを褒められるのは、素直に嬉しいです。

    でも、はりゅうみぃさんの「迎えるラストに力量の違いを見た」
    も、作品の特長をとても簡潔に表せていると思いますよ。
    いつか本書のレビューを読ませてもらいたいです。

    あぁそうそう、私、男ですよ。
     

  6. オクー

    こんにちは!この本のことをブログに書いたので他の人の感想を
    いろいろ見ていてこちらに来ました。僕にとっては小川さんのこ
    の小説は去年のベストです。「お気に入り」に入れました、時々
    見に来ますのでどうぞよろしく。それにしても本を読むペースが
    早いですね。僕は遅くて…。では!あ、ブログ見てください。

  7. YO-SHI

    オクーさん、コメントありがとうございます。

    この本をベストに選ばれる方は結構多いですね。
    私は今年になって(というか年末年始に)読んだのですが、
    昨年読んでいれば迷わずベスト10入りさせたことでしょう。

    ブログも拝見しました。ティム・バートンの映画のテイスト
    ということに私も賛成します。
    はじめられて1月あまりのようですが、これからも楽しみに
    しています。
     

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