著 者:梨木香歩
出版社:朝日新聞社
出版日:2009年5月30日 第1刷発行 6月10日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
私が初めて読んだ著者の作品「家守綺譚」に似た雰囲気の作品、という話を耳にして手に取ってみた。「似た雰囲気」の意味が10ページも読んだあたりで分かった。本書の世界は、この世ならぬ者たちがごく自然にそこに存在する世界なのだ。「家守綺譚」で河童や鬼、狐狸妖怪の類がいたように。
とはいえ、本書はホラーでもオカルトでもない。登場するこの世ならぬ者たちは、焦ると犬になってしまう歯科医の家内、雌鶏頭になる大家、ナマズ顔の神主らで、他人を脅かしたり、ましてや害をなす者ではない。普通にそこに存在する。ここは、そういう異界なのだ。
主人公は佐田豊彦、植物園に勤務する技官で1年近く前にf植物園に転任してきた。1年以上放置していた歯痛が、いよいよガマンならなくなって歯科医に駆け込んだあたりから異界に踏み込んだらしい。窓口で薬袋を差し出した手が犬のそれだった。
上に書いたように、その手は歯科医の家内の手だったのだが、そのことを歯科医に訴えたところ、帰ってきた返事が「ああ、また犬になっていましたか。」だ。ここから物語は夢の中のようにフワフワした非現実の世界に漂いだす。妻が犬になっていても動じない世界では、何も確実なのものとして信じられない。
本書を読んでいて思い出したのは、ジョージ・マクドナルドの「リリス」。トールキンらに影響を与えたと言われる、ファンタジーのルーツのような作品で、浅い夢を見ているような、まさに「幻想文学」だ。夢の中のような異界をさまようということと、そこから醸し出される雰囲気が本書と似ている。
「リリス」は宗教的な含みを持った生と死を扱った物語だが、本書は主人公の心を映す物語だ。途中で水の中を下に下にもぐっていくのは、心の奥へ奥へと進むことを表しているように思う。そこで出会ったものは、主人公の心にひっそりとあった、しかし決して消えることのなかった何かだった。
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o(*^▽^*)oこんにちは。私はこの本を読んで、虫歯より歯医者通いを思い出しました。
こぶしの白い花の記述のところが、好きです(≧∇≦)
きよりんさん、コメントありがとうございました。
木々や草花の描写が丁寧ですね。植物園が舞台だからという
のではないようで、「家守綺譚」も「西の魔女が死んだ」も
そうでした。
歯医者通いって、多くの人に経験があると思いますが、
あまり良い思い出ではないことが多いですね。
f植物園の巣穴 / 梨木香歩
なんだろう〜、この不思議な感じ。「家守綺譚」や「沼地のある森を抜けて」に通じるものがある。この世とあの世(異界)を同レベルで存在させられるのは、さすが梨木さん。空気も水も光も影も何もかもが交じり合って、息をするのも忘れそうなほどうっとり。
=== amazon…….
YO-SHIさん こんにちは。
梨木さん、この世界と異界と混ぜ合わせてなおかつ普通に存在させるのがうまいですよね。
ジョージ・マクドナルド、残念ながら読んだことがありません。
レビューを読ませて頂いて気になりました。また機会があったら読んでみたいと思います。
たかこさん、コメントありがとうございます。
そうそう、うまいと言うか専門というか。梨木さんが描く異界は
この世界からの距離が近いんですよね。隣り合わせにあるとか、
完全に重なっているとか。ここから先が異界、というような
境界線がない感じ。
ジョージ・マクドナルドさんの作品は、私も「リリス」だけしか
読んでないので、作風とかまでは言えないのですが「リリス」は
夢の中のイマジネーションのような作品です。
「ファンタジー」の訳に「幻想文学」という言葉を使うことが
ありますが、ハリーポッターに「幻想文学」という言葉は
似合わなくても、「リリス」にはぴったりきます。