ザ・チョイス 複雑さに惑わされるな!

書影

著 者:エリヤフ・ゴールドラット 訳:三木本亮
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2008年11月7日第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 著者のことをご存知ない方のために、少しご紹介する。著者はイスラエルの物理学者。ご自分のことを「科学者(Scientist)」と表現することが多い。その科学者である著者が編み出した、生産管理手法のTOC(Theory of Constains:制約理論)を小説の形式で紹介した作品「ザ・ゴール」が世界的なベストセラーになった。
 生産工程で全体のスループットに最も制約を与える「ボトルネック」に集中するTOCは、大変な衝撃を持って産業界に迎えられた。「こんな理論は当たり前のことだ」とうそぶく向きもあったようだが、即効性があって実践も容易なシンプルな理論で「目からウロコが落ちる」とはまさにこのこと。実は私も生産管理を学んだことがあるのだけれど、こんな話は聞いた事もなかった。
 その後、「ザ・ゴール2」「チェンジ・ザ・ルール」「クリティカル・チェーン」と作品を重ねて、TOCは生産管理だけでなく、セールスやプロジェクト管理、思考方法にまで範囲を拡げてきた。そして、本書のテーマはさらに拡がって「組織や人間関係をよりよくする哲学、アプローチ方法」だ。

 身もフタもない言い方をすれば、本書は駄作だと思う。著者の科学者としてのメッセージは分かる。それは「一見複雑に見えるモノも、実はシンプルなのだ」ということだ。そしてそれを複雑に捉えて混乱させる壁がこれこれで、こうすればその壁は打ち破ることができる、ということが書かれている。
 物理学者である著者は、自然科学のコンセプトや手法が社会科学にに応用できるという信念を持っている。特殊相対性理論の関係式が「E=mc2」というシンプルな式で表せるように、複雑に見える社会もシンプルなのだ、というわけだ。そして、その信念はこれまでに生産管理やセールスやプロジェクト管理という社会科学の範疇で実績を上げている。それは素晴らしい功績だと思う。

 それなのに今回は駄作だと思う理由は「説得力がない」ことだ。その原因は「変革の現場」に読者が立ち会っていないからだ。今回は「よりよい人生を送るためにはどうしたらいいの?」という娘の問いかけに、ゴールドラット博士が答える形式になっている。父娘の対話の合間に、「これを読んでごらん」と言って、ゴールドラットグループのレポートが提示される。
 これまでの作品が、管理手法の解説書としては異色の小説仕立てであることは、その成功の大きな要因だった。読者は、その手法を導入する現場を、様々な想定される反発や困難も含めて体験することで、よりその実効性の確信を深めていくからだ。
 それなのに今回は、その現場はレポートで示されるの。「このような反発が予想されましたが、先方のメリットをしっかり伝えることで、前向きに取り組んでいだだけました。」なんて要約されたものを見せられても説得力がない。☆2つは、私としてはあまり付けない低い評価なのだが、私の「ガッカリ度」を表していると思ってもらいたい。

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2つのコメントが “ザ・チョイス 複雑さに惑わされるな!”にありました

  1. te2ya2ya

    YO-SHIさん、はじめまして。
    私のブログへのコメントありがとうございます。

    確かに、この本はちょっとガッカリでした。
    どんどん入り込んで行く面白さがなかったのは、YO-SHIさんがおっしゃるような「説得力」がないからというのも、理由の一つですね。

  2. YO-SHI

    te2ya2yaさん、コメントありがとうございました。

    これまでの作品に較べると、ガッカリですよね。
    同じように考える方が見つかってうれしいです。

    そう、どんどん入り込んでいく感じがしない。
    何だか作り物のように思ってしまうんです。
     

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