月の森に、カミよ眠れ

著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:1991年12月 初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作「精霊の木」の2年後に、同じ「偕成社の創作文学」シリーズとして出版された作品。「精霊の木」が、フィールドワークを積んだ文化人類学者の著者らしい作品ながら、地球が破滅してから200年後という未来を描いたSFであり、その後の作品群を知っている身から見ると言わば変化球であるのに対し、本書は真っ直ぐにその後の作品につながる直球という感じだ。

 本書の舞台は場所は九州南部。時代は恐らくは奈良時代で、朝廷の力がこの遥か遠くの山奥にまで及ぶようになってきた頃。主人公はムラ長でもある巫女のカミンマ。それから、山のカミを父に人間の女を母に持つナガタチと、月の森のカミを父に人間の女を母に持つタヤタ。
 ナガタチやタヤタの存在が表すように、この頃の人々はカミ(神)と分かちがたく暮らしていた。カミやその山や森などの聖なる場所を敬い畏れていた。カミは深い恵みを与えてくれる一方で、容赦のない厳しい試練を課し、狩猟採取に頼る人々の暮らしは過酷を極めていた。
 そこに、朝貢のために都へ行き、その壮大さと隆盛を目の当たりにしたカミンマの兄たちが6年ぶりにムラに戻る。彼らがもたらしたことは、水田を造り稲を育てれば、安定した食料が手に入る、米を朝廷に納めれば朝貢に行かなくても良くなる、ということ。しかし、山奥のこのムラでは月の森にある沼地を拓かなくては、水田は造れない。人が触れてはならない「掟」がある沼地を。

 カミを敬い畏れるこれまでの暮らしと、都からもたらされた新しい思想の衝突。たつみや章さんの「月神の統べる森で」のシリーズにおける、縄文と弥生の衝突と似た構図だ。「自然と一体となったこれまでの暮らしを守るべきだ」とはとても言えない。
 「CO2削減のために少しの不便をガマンしよう」なんて、甘っちょろいことではないのだ。「沼地に水田を拓かなければ、ムラが全滅するかもしれない」のだ。しかし、カミンマに伝えられている教えは「「掟」と人の命のどちらかをとらねばならぬときは「掟」を」というものだった。デビュー2作目にして重厚なテーマを正面から扱った作品だった。

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