著 者:塩野七生 アントニオ・シモーネ
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2009年12月9日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
塩野七生さんの対談集。そして対談相手のアントニオ・シモーネさんは、塩野さんの息子さんだ。実に異色の著作と言うべきだろう。塩野さん自身が、巻頭で何よりも最初に「最初にして最後」と書かれたことからも、「これは特例中の特例」という意識が伝わってくる。
「特例」が実現した裏には、編集者の勧めあるいは意向があったようだが、とにかく塩野さんはプライベートの露出とも言えるこの企画を受けた。「仕方ないなぁ」というポーズは見てとれるが、息子との対話が「うれしくて仕方ない」感じが、全編にわたってにじみ出している。
「これは特例」「でもうれしい」そんな母の気持ちを知っているのかいないのか、アントニオさんはマストロヤンニのドキュメンタリー映画での娘へのインタビューを「父親としてのマストロヤンニは、他の多くの父親と何ら変わりない」のだからつまらない、と切って捨ててしまう。母親としての塩野七生はどうなのだ、と返ってくる問いを予見しての発言だとしたら、脱帽モノだ。
そして、本書が「著名な作家の息子との語らい」でしかないのであれば、私も同じようなことを、例えば「作家としての塩野七生は好きだけれど、母親としては別に興味ない」とでも言っただろう。実は私は、学生の時から25年来の塩野ファンで、著作のほとんどを読んでいるのだが、本書は長い間放置していた。それは、そんな結果になることを危惧していたからだと思う。
ところが本書は本当に予想に反して、読んでいて実に楽しかった。31章からなる母子の対話は、1つの例外を除いて、古今東西の映画を話題にしている。これは、塩野さんが「書物と映画は同格」と育てられ、同じ教育を息子にも与えて数多くの映画を観ていることと、アントニオさんが末端とは言え映画制作の現場でお仕事をされていたためだ。
お二人の映画についての知識と想いがハンパではなく、アントニオさんが披露するハリウッドとイタリアの映画界の裏話もアクセントとして効いている。30編の対話で130余りの映画が俎上に上るのだけれど、私は「あぁ映画が観たい」という激しい飢餓感を感じた。ものすごく美味しそうな料理の本を見て、猛烈にお腹が空いてしまったような感じだ。
最近の作品もあるけれど、60~70年代の映画が数多く紹介される。学生時代に、下宿近くの500円で1日居られる映画館に足を運んでいた頃に観た映画と、観ようと思っていたのに観なかった映画の名前を見て、当時を思い出してしまった。(京都の「京一会館」の名前に覚えがある方はいらっしゃいませんか?)
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京一会舘・・なんどもあの名画座には足を運びました。
2階にある劇場・・天井までびっしりと映画のポスターで埋まっていて・・(チラシ持参で割引料金に)。
3本立てで、いっぱい名画を観ましたよ。(あと祇園会館でも・・大阪方面は大毎地下劇場で)
あの頃にYO-SHIさんと自分は、同じ時に劇場にいて、同じ映画を観ていてのかも知れませんね。
naoさん、コメントありがとうございます。
naoさんも京一会館に行ってらしたんですか。ホントですか?ビックリです。
私は下宿が一乗寺で徒歩圏内だったので、何回も行きましたよ。
(「通う」というほどではないですが)
それから、祇園会館も行きましたよ。覚えているのは「1900年」という
5時間以上あるイタリアの映画。途中で休憩がありました。
私も、京都の一乗寺に住んでいました。曼殊院のちょっとした辺りです。それほど頻繁に映画を見る方ではなかったですが、「京一会館」にも何回かいったかな。今ではあのあたりもすっかりと変わっていますね。
もちろん、祇園会館にも行きました。遥か昔の思い出ですが。
風竜胆さん、コメントありがとうございます。
なんとなんと風竜胆さんも一乗寺の住人だったんですか!
私は北大路沿いのアパートに住んでました。京福の踏み切りから
少し東へ行ったところです。
一乗寺も広いですから、曼殊院からは距離がありますが、
生活圏としては重なる部分はありますね。
いやぁ、思わぬところで縁があるものですね。