ペンギン・ハイウェイ

書影

著 者:森見登美彦
出版社:角川書店
出版日:2010年5月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「また1つ、著者の新しい引き出しが開いた」そんな感じがした。本書は著者の最近刊。月刊誌に2007年から2008年にかけて掲載したものに大幅に加筆したそうだ。著者は「太陽の塔」「四畳半神話大系」で、臭うような腐れ大学生を描いて登場し、「きつねのはなし」「宵山万華鏡」で妖かしの京都を描いた。エンタテイメント作品の「有頂天家族」もある。
 「腐れ大学生」にインパクトがあってクローズアップされがちだけれど、このように色々な物語を次々とつづっている。ただし、そこにはいつも「濃密な空気感」があった。しかしこの作品に感じる空気は淡彩画のようにとても淡い。これはまったく別の引き出しから出てきたもののようだ。

 主人公はアオヤマ君。郊外の街に住む小学校4年生の男の子だ。彼は毎日きちんとノートを取る。授業だけではなく、毎日の発見をノートに記録している。そうしてたくさんの「研究」をしている。「昨日より今日はえらくなる」ことを自分に課していて、大人になった時にどれだけえらくなっているか見当もつかない、と思っている。
 まぁ、「子どもらくない」こと甚だしいのだけれど、これが意外と憎めない。もちろん同級生のガキ大将キャラのスズキ君たちの受けはすこぶる悪く、自動販売機に縛り付けらてしまったりする。そこを歯科医院のお姉さんが通りがかって「なにしてるの、少年」と聞かれて彼は、「自動販売機ごっこです」と答える。クールすぎる。

 物語の発端は、歯科医院の隣の空き地に突然ペンギンが何羽か出現したこと。そして、トラックで運ばれる途中で姿を消してしまった。現れた時と同じように突然に。こうしてアオヤマ君は、一緒に探検隊を組んでいるウチダ君とともにペンギンの「研究」をはじめる。途中から同級生のハマモトさんも加わって謎の解明を進める。けれども謎は深まるばかり、というストーリー。(ハマモトさんは、「E=mc2」と書かれたアオヤマ君のノートを見て「相対性理論?」と聞く、とってもキュートな女の子なのだ)

 とても楽しめた。今までの著者の作品(とくに腐れ大学生)のようなものを期待すると薄味すぎて物足りないかもしれない。でも、アオヤマ君の研究テーマの1つには「歯科医院のお姉さん」というのもあって、そのために彼はお姉さんのまるいおっぱいを観察する。頻繁にこの4文字が出てくるあたりは著者らしいといえばその通りだ。
 「誰々に似ている」という言い方は著者に失礼な気がするのであまり好きではないのだけれど、本書は「もし村上春樹さんが小学生を主人公にして書いたら」こんな感じかな、と思った。この街には「海辺のカフェ」というカフェがあるのだけれど、その字を見るたびに「海辺のカフカ」を思い出してしまったからそう思うのかもしれない。この1文字違いは偶然なのか?

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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6つのコメントが “ペンギン・ハイウェイ”にありました

  1. たかこの記憶領域

    ペンギン・ハイウェイ / 森見登美彦

    もりみー!こういうのも書くんだ。
    事前情報で、京都が舞台の話でもなく腐れ大学生も出てこないというのは知っていたけど、うーんやられた!なんかせつないよ。思いがけずホロリとしてしまったではないか。
    小学4年生のアオヤマくんは研究熱心である。日々気がついた…….

  2. たかこ

    こんばんは。
    私もちょうど「ペンギン・ハイウェイ」を読んでいました。
    本当に
    > 「また1つ、著者の新しい引き出しが開いた」
    そうですね~。こういう話も書くんだ…と驚きました。
    腐れ大学生が出てないと、盛り上がりに欠ける?ような気がしますが、
    これはこれで好きです。
    しかも最後はホロリとさせられました。これは今までにはなかったことですね。
    今後はどのような感じでいくのでしょうか、ますます期待します。

  3. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    そうそう、これからはどの感じでいくのでしょうね?
    私としては、「宵山万華鏡」の路線を期待してるんですが。
    (そう言えば、昨日は宵山の日ですね)

    それから「腐れ大学生」も。有頂天家族の第二部は「パピルス」に
    連載されていたハズなんですが、どうなったんでしょう?

    あれっ。これでペンギン路線もあと2,3冊は、って言ったら
    全方位になってしまいますね(笑)

  4. lazyMiki

    YO-SHIさん、こんばんは。
    ご無沙汰しております。
    私、これまでのエキサイトからFC2にブログを移転しました。
    エキサイトよりはフクザツな作りになっているFC2なのであれ
    これまだ勝手がわかりませんが、よろしければ新しい方でまた
    お付き合い下さい<(_ _)>。

    森見さんの「ペンギン」、ワタクシ大変好きでした!
    京都も腐れ大学生も出てこない森見作品がこんなに面白いとは
    意外の感もありました。
    ちなみに、朝日新聞に連載された「聖なる怠け者の冒険」は、
    意地で全回読みましたが、つまらなかった・・・(-“-;
    (ちなみに京都の腐れ社会人の話です。)
    最近は、村上さんや伊坂さんや、もしかしてこの森見さんなども、
    何となく語り口が似てきている気がします・・・。
    TB送らせて頂きますね。

  5. YO-SHI

    lazyMikiさん、ブログ移転のお知らせありがとうございます。

    ちょっと前に、前のブログで「移転します」というお知らせ記事に
    移転先が書かれていなかったので、気になっていました。
    (いつかこんな「移転のお知らせ」が来るかな?と期待してたので、
    うれしいです)

    私の家は朝日新聞読者なので、読んでましたよ「ぽんぽこ仮面」。
    ところどころは面白い場面もあったけれど、混迷を深めて突然
    終わってしまった感じでした。
    森見さん本人が連載後の「反省の弁」で書かれていたところでは、
    考えていたことの半分も書けていないそうですね。

    連載小説「聖なる怠け者の冒険」を終えて 森見登美彦

  6. 笑う学生の生活

    森見さんの新境地!

    小説「ペンギン・ハイウェイ」を読みました。
    著者は 森見 登美彦
    本作は 今までの森見作品とはちょっと違くて
    大学生もいなければ、京都が舞台でもない
    今回は小学4年生が主人公という
    ちょっと児童文学的と思いつつも・・・
    やはり おませなアオヤマ君のキャラや研……

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