きつねのはなし

著 者:森見登美彦
出版社:集英社
出版日:2006年10月30日 発行 11月20日 2刷 
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の2006年の作品。表題作「きつねのはなし」と「果実の中の龍」「魔」「水神」の4作品を収めた短編集。単行本としては「太陽の塔」「四畳半神話大系」の次、「夜は短し歩けよ乙女」の前の作品だ。
 このようなことを書いたのは、本書の趣がその前後の作品とは大きく違うからだ。これまでの作品は、大学生のグダグダな生活を描いた、笑いの中に青年の屈折を包んだものだった。ところが本書は、京都の街が持つ「妖しさ」に焦点を合わせてグッと寄った作品で「異色」と言ってよいだろう。

 4編はそれぞれ独立した作品だが、共通の人物が登場するなどして、緩やかなつながりがある。「芳蓮堂」という名の古道具屋、そこの女主人、怪しげな客、からくり幻燈、そして胴の長いケモノ。こうしたものがそれぞれいくつかの作品に登場し、効果的に「妖しさ」を演出している。そして、妖しい余韻をたっぷりと残して物語は終わる。

 「異色」ということについてだが、京都は人口の1割が大学生だと言われる「学生の街」であり、1200年の歴史が層となって積もった「歴史の街」でもある。学生時代からこの街に住む著者が、大学生の暮らしを描く一方で、目に見えぬ歴史の層が醸し出す「妖しさ」を描こうとしたのは自然なことであったと思う。
 そして、神社の灯篭やお祭りの提灯の朱い灯のような「妖しさ」を描く方向性は「宵山万華鏡」へとつながる。以前「宵山万華鏡」のレビューに、「やっと森見さんがやりたかった物が...」というコメントをいただいたことがあった。今なら、私にもそうしたつながりを2つの作品の間に感じることができる。

 本書で、これまでに単行本として出版された著者の作品はすべて読んだことになりました。コンプリート達成!
 「森見登美彦」カテゴリー

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8つのコメントが “きつねのはなし”にありました

  1. るるる☆

    話が繋がっているようで繋がってなく、どこかではぐらかされてて、
    すべてがあやふやなままで・・まるで狐に化かされたような気になりました(^^;

    私も「宵山万華鏡」を読んでようやく、森見さんが描こうとしたことってこういうことなのか・・って
    分かった気がしましたね。

  2. YO-SHI

    るるる☆さん、コメントありがとうございます。

    この本と「宵山万華鏡」とは通じるものがあると思います。
    ただ、大きな違いも感じるんです。
    それは「妖しい」と「怪しい」の違いと言えばいいのかも。

    この本には両方の「あやしい」が含まれています。
    吉田神社の灯篭やからくり幻燈が醸し出すのは「妖しい」ですが、
    正体不明のケモノや悪意が感じられる客などは「怪しい」です。

    それに対して「宵山万華鏡」が描いているのは、「それについて
    行くと、どこかに引き込まれてしまう(抜け出せない)」という「妖しさ」

    私が京都の街に感じるのは「妖しさ」なので、「宵山~」の方が
    胸に落ちる感じがするのではないかと思うんです。
     

  3. ほうび

    コメント失礼致します。
    以前宵山万華鏡でコメントしたものです。
    そして今回文末の方で、ちらりと私のコメントの事が書いてありましたので、お邪魔しました。

    あの時は本当に思い上がった文章を送ってしまったと反省しております。すみませんでした。
    でも一通り作品を読むと、全てが宵山万華鏡に終結している気がするんですよね。
    それだけ宵山万華鏡が素晴らしい作品だと思うのですが。
    普段書いているくされ大学生ものも良いのですが、こういう不思議な世界を醸し出すものもいっぱい読みたいですね。

    私は個人的に短編集等で収録されている話が、最後にひとつに繋がったりすると喜ぶ質なので、きつねの話もとても楽しく読めました。
    最後も結末をあえて出さないので、余計想像力を掻立てられるのでしょうか?

  4. YO-SHI

    ほうびさん、コメントありがとうございます。

    「宵山万華鏡」の時は、まだこの本を読んでなかったので
    ほうびさんの「森見さんがやりたかった物が...」という
    コメントにピンと来なかったんですね。

    本人にしか分からない、というのはその通りなんですが、
    今なら私も「あぁ、こういう物語が書きたかったんだな」
    というふうに思います。

    私も、森見さんの不思議な世界を醸す本をもっと読みたいです。
     

  5. たかこの記憶領域

    きつねのはなし / 森見登美彦

    あら、あらあら…。腐れ大学生は?黒髪の乙女はどこ?これは本当にモリミーの作品なの?
    場所はいつもと同じ京都。「芳連堂」という古道具屋を中心に話が進む。どれもきつねに化かされたような、不思議で妖しい感じがする。それでもって奥が深くて本当に怖い。特に、表…….

  6. たかこ

    YO-SHIさん こんばんは。
    未読の作品は基本的にネタバレせずに読むので
    有頂天家族のきつね版かぁ、なんてのんきにかまえて
    読んでいたら、とり憑かれました(笑)
    腐れ大学生だけでなく、こんな正統派も書けるなんて
    私は良い意味で裏切られました。

  7. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    たかこさんがブログでおっしゃっていた通り、
    「これは本当にモリミーの作品なの?」ですね。
    「有頂天家族のきつね版」だと思っていたなら、
    さぞビックリしたことでしょうね。

    ちょっと読んでみたい気もするけれど...
    「有頂天家族のきつね版」
     

  8. 本の宇宙(そら) [風と雲の郷 貴賓館]

    きつねのはなし

     冒頭にいきなり
     「天城さんは鷺森神社の近くに住んでいた。」
    というフレーズがあり、思わず買ってしまった「きつねのはなし」(森見登美彦:新潮社)。鷺森神社は、修学院の近くににある古い神社で、私も学生時代にこの近くに住んでいた。
     読んでいく…….

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