文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎

書影

出版社:河出書房新社
出版日:2010年11月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 まるごと1冊、伊坂幸太郎さんを特集した240ページ弱のムック誌。「文藝」という河出書房新社の季刊文芸誌の別冊。伊坂さんへのロングインタビュー、ミュージシャンの斉藤和義さん、映画監督の中村義洋さんとの対談、伊坂作品に関するエッセイや論考、作品ガイド、そして伊坂さんが大学1年生の時に生まれて初めて完成させた小説のプロットを使った、書き下ろし短編などが収録されている。言わば「伊坂幸太郎の詰め合わせ福袋」。

 私がこういう雑誌に期待するのは、作家さん自身の声と、作品のトリビア的なものを少し。だからロングインタビューや対談が興味深かった。伊坂さんがある作品についての想いを語り、その作品に対する読者の反応を紹介する。反応の9割方は伊坂さんの予想とは違ったらしい。その予想外の反応の多くは、私の感想そのものだった。ただし「ゴールデンスランバー」のくだりで「何でわかってくれないんだよ!」というセリフには、私は「わかってましたよ」と言いたい(笑)。

 もう一つ、すごく面白かった記事がある。それは、巻末に資料編のように付いている「伊坂幸太郎全作品2000⇒2010」。これまでに出版された20作品の「担当編集者の裏話」が紹介されている。例えば「初稿版にあってカットされた忘れられないエピソード」があるという話。あることだけが明らかになっていて、その内容までは分からない。知りたい。どうしても知りたい!

 そもそも不思議なことに、伊坂さんの作品は数多く出ているけれど、本書の出版社である河出書房新社からは出ていない。裏話を明かしている編集者は全員が他の出版社の人なのだ。まぁ、それぞれの出版社が等距離にあるわけで、だからこそこの企画が実現したのかもしれない。けれど、それぞれの編集者の言葉からは、ヨイショを割り引いても、伊坂さんとの仕事を楽しんだ雰囲気が伝わってくる。その雰囲気が他の出版社が出すこの本への協力につながったのだと思う。

 この後は、「ちょっと気になったこと」を書いています。お付き合いただける方はどうぞ

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 些細なことなんですが、気になったことがいくつかあります。

 1つ目は、伊坂さんは「ネットの感想を読んでいない」と分かったこと。決して誤解して欲しくないのだけれど、これは「読者の感想を無視している」ということではありません。ネットの感想を読むのは、数的にも内容的にも負担が大きく、以前に身体を壊してしまったことがある、という文脈で語られています。つまり「読者の感想を正面から受け止めている」ことに他ならないのです。
 私が気になった理由も、自分のブログの記事が著者の目に触れることはないのだ、と分かってしまった、ということがないとは言わないけれど、それよりもネットのコミュニケーションの限界を感じたことの方が大きいです。ネットは、いや私たちは、感想を直接に著者に届けられるほどには、成熟していないということです。

 次は、さらに些細なことですが....「間違いではないか?」と思われる部分が2ヶ所あったことです。1ヵ所目は明らかな間違いで、「伊坂幸太郎を紐解く10のキーワード」の5番目「だまし絵」のページ。作品間リンクの話で、「チルドレン」の家裁調査官・武藤と、「砂漠」の西嶋のことが紹介されていますが、誤って「西澤」と書かれています。

 もう1ヵ所はさらにさらに些細なことで、これも「チルドレン」と「砂漠」の作品間リンクの話です。巻末とじ込みの「伊坂幸太郎全作品相関図」。西嶋の担当の調査官を「陣内」と紹介していますが、これは「武藤」でしょう。(武藤という説もあるが..と、注はついていますが)
 「砂漠」からだけ見ると「陣内」の方がふさわしく思えますが、「チルドレン」に、「ずいぶん前に一人だけ、喧嘩の理由を問われて、「平和の実現」と答えた少年がいたけれど」という武藤のセリフがあります。そもそも同じ本の中の「~を紐解く10のキーワード」で、「武藤」と書いておいて、とじ込みでは「陣内っぽい」とは、書いた人が違うとは言えどうなんでしょう?

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