マリアビートル

著 者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2010年9月24日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「あぁ、今回はこの路線か」と扉のページをめくってすぐに分かった。登場人物の一人の木村という字の印影が冒頭にあるからだ。これは「グラスホッパー」の時と同じ。この印影は著者からのシグナルに違いない。「殺し屋がたくさん出てきます。そしてたくさん死にます。」というシグナル。

 印影に対する私の解釈はピンポイントでヒットしたようで、本書が描くのは「グラスホッパー」から6年後の物語。あの時、一連の騒動の末に闇社会の大立者が死に、多くの殺し屋が死んだ。しかし、殺し屋たちの「業界」は存続し、今は新たな実力者が君臨しているらしい。今回も登場人物のほとんどは「業界」の中の連中だ。

 舞台は東北新幹線「はやて」の中。朝の9時に東京駅をでて盛岡に着くまでの2時間半の物語。主人公は特になく、2人組みの殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、メチャクチャ運が悪い殺し屋「七尾」、かつて物騒な仕事をしていた「木村」、そして中学生の「王子」らの視点の物語がクルクルと順番に語られる。
 「七尾」の今回の仕事は、デッキの荷物置き場にあるトランクを持って上野で降りる、それだけのことだった。ところが、ある男にジャマをされて上野駅で降りることができず、そのうちトランクを失くし、トランクの持ち主である「蜜柑」と「檸檬」に狙われ..と運のなさが全開。途中でそのつもりもないのに人を殺してしまうし..

 その後は、登場人物入り乱れてのドタバタが展開される。もちろん著者の作品だから、伏線やアッと驚く展開で楽しませてくれる。「殺し屋」の話で人がたくさん死ぬのに、どこかしら軽いノリなのは、著者の周到な準備のせいだろう。「七尾」の運のなさと自信のなさは笑えるし、「檸檬」が「機関車トーマス」の大ファンなのも愛嬌がある。
 ただし「王子」の部分は、愛嬌も救いもなく異質だった。どす黒く滞った悪意が感じられて、嫌悪感さえ持った。著者は以前「バランスを崩したい」とおっしゃっていたが、本書ではここがそうなのだろう。読み終わってしばらく経った今は、あの時の嫌悪感が随分薄らいでいるのに少しホッとする。

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