ぬしさまへ

著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2005年12月1日発行 2009年12月5日 第40刷
評 価:☆☆☆(説明)

 先日の「しゃばけ」に引き続きで「しゃばけ」シリーズ第2作。長編だった前作とは違って、こちらは短編集。表題作の「ぬしさまへ」を含めて6つの短編が収められている。私の経験では、シリーズものの短編集は、本編に収まらなかったエピソードなどをまとめた外伝的なものが多かった。だから第2作にして短編集というのは、ちょっと驚いたのだけれど、これがなかなか良かった。

 私は知らなかったのだけれど、ミステリーの一分野に「ベッド・ディテクティヴ」(日本語にすると「ベッド探偵」)というのがあるそうだ。病気などを理由にベッドから出られない、自分では調査することができないという条件で、聞き知った話を基に推理力を働かせて事件を解決する。大店の長崎屋の跡取り息子でしょっちゅう寝込んでいる、主人公の一太郎が、妖たちの力を借りて難事件を解き明かす一連の短編は、この「ベッド探偵」?「ふとん探偵」?いや「寝込み探偵」か?

 6編すべて味のある物語だった。中でも良かったのは、「空のビードロ」「仁吉の思い人」「虹を見し事」の3編。「空のビードロ」は、一太郎の兄で幼くして長崎屋を出された松之助の物語。松之助は「しゃばけ」の終盤にストーリーに絡んでくるが、その顛末は余韻を残したままになっている。「しゃばけ」が描いた一太郎が兄を求めた物語は、この短編をもってようやく了となる。

 「仁吉の思い人」「虹を見し事」は、それぞれ形は違うけれど「届かぬ恋心」が中で描かれている。何とも切ない物語。甘やかされ放題に育ちながら、性根の真っ直ぐな一太郎は、周囲に世話をかけお店の役にはあまりたっていないと、自ら感じている。そして「虹を見し事」では、「私は本当にいらない人になってしまう」と胸中に思う。「今のあなたなら、そんなことにはならない」と教えてあげたい。

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