魔法の誓約(上)(下)

著 者:マーセデス・ラッキー 訳:細美瑤子
出版社:東京創元社
出版日:2010年12月24日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 1年余り前に読んだ「魔法の使徒」の続編。前作で、主人公ヴァニエルは「生涯の絆」で結ばれた、最愛の人であるタイレンデルを失った。その悲しい出来事で魔法の天恵(そしつ)を開かせたヴァニエルは、それから十年あまりの間、「魔法使者」として隣国との戦いの場にその身を投じていた。本書の物語は、ようやく休暇を得て首都ヘイヴンの自分の部屋へ帰り着いたところから始まる。
 28歳になったヴァニエルは、この国で「他に代わりがいない」人材になっていた。数々の勲しが吟遊詩人によって伝えられ、生きる伝説となる。しかし、部屋に戻ってきた時には、心身ともに消耗し切っていた。戦いで味方の「魔法使者」が次々と命を落とし、5人分の防御を一人で担っていたのだ。

 首都で、友人でもある王のランデイルや、師でもある伯母のサヴィルとの短い邂逅で気力を幾分取り戻した後、ヴァニエルが向かったのは、故郷であるフォルスト・リーチ。本来なら、最も心休まるはずのその場所は、自分を認めてくれない父母や、子どもだった自分を一方的に痛めつけた武道ノ師範がいる、ヴァニエルにとっては憂鬱な場所だっだ。

 物語は、前半は故郷でのヴァニエルの暮らしを抑えた調子で描く。新しい出会いがあり、父や武道ノ師範との関係は少しずつ変化する。後半は一転して、隣国の王位継承問題や、もっと大きな災いを巻き込んでうねるように進む。青年ヴァニエルの心の内面のドラマと、大スペクタクルが絶妙な具合に融合して、両方が楽しめる。

 「魔法の使徒」のレビューにも書いたが、本書は「ヴァルデマール年代記」と呼ばれる著者の一連の作品群の1つ。そして「最後の魔法使者」三部作の2つ目にあたる。「ヴァルデマール年代記」は、ヴァルデマール国の実に約2400年間の出来事を綴る長大なシリーズだ。
 もう一つ。これも前作のレビューにも書いたが、主人公ヴァニエルは同性愛者。もちろん、それはヴァニエルの人物造形に欠くことのできないものなのだけれど、気になる人は気になって仕方ないかもしれない。しかし、登場人物たちの多くは頓着していない。読者も同じ心構えで臨めばいいと思う。

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