著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2010年9月15日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者はいったいどれだけの物語をその身に湛えているのだろう?「ローマ人の物語」で、ローマ帝国の1200年間を15年かけて描いた後、1年おいて「ローマ亡き後の地中海世界」で、西ローマ帝国滅亡後の6世紀から16世紀までの地中海世界を描く。そして間を空けずに、今回は「十字軍」(画文集とあわせて4部作の予定)だ。
もちろん、文献などにあたって常にインプットがあってこそのアウトプットだし、ヨーロッパの歴史そのものに物語が埋まっているとも言える。しかしこの大量の物語がとめどなく流れ出るような、最近の著作活動には圧倒される。
本書は、高校の世界史の教科書に載っている「カノッサの屈辱(1077年)」から話を掘り起こして、11世紀末から12世紀初頭にかけての、第一次十字軍のイェルサレムへの遠征を描く。主な登場人物は、この十字軍に参加したキリスト教国の領主やその親族たち。
その陣容を紹介する。南フランスのトゥールーズ伯サン・ジル。神聖ローマ帝国下のロレーヌ公ゴドフロアと弟のボードワン。南イタリアのプーリア公ボエモンドと甥のタンクレディ。法王代理の司教アデマール。この他にもフランスの王弟や、各地の領主が参加していて「オール欧州」の様を呈している。
このように紹介はしたものの、十字軍に造詣が深い方でなければ、初めて聞く名前ばかりだろう。高校の教科書には「カノッサの屈辱」の教皇グレゴリウス7世と皇帝ハインリッヒの名前は載っていても(これだって覚えている人はそう多くないだろうけれど)、第一次十字軍に参加した諸侯の名前は載っていないから(娘の教科書「詳説世界史 改訂版(山川出版社)」で確認済)。
それでも敢えて名前を挙げたのは、本書が、彼らを主人公にした群像劇に仕上がっているからだ。歴史の記述は「出来事」を中心に語られることが多い。それは正確さを求められるからだろう。「出来事」は史料からある程度は確定ができる。
しかし本書は「人」を中心に語られている。ある出来事を誰かが起こすと、その人が「なぜ、どういう気持ちで」そうしたかが描かれる。そんなことはなかなか史料に残っていないだろうから、正確ではないのだろう。でも、その方が物語に血が通う。そして圧倒的に面白い。
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