著 者:重松清
出版社:文藝春秋
出版日:2008年3月15日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の2月の指定図書である、「きみの友だち」を読んだときに、メンバーさんから教えていただいた本。産経新聞に連載されていたものを単行本化し、さらに文庫化された短編集。本書は「春」で、当然「夏」「秋」「冬」もある。季節に合わせて読んでいこうと思っている。本書も桜の季節を待って読んだ。
表題作の「ツバメ記念日」を含む12編を収録。これまでに読んだ著者の作品は「きみの友だち」と「青い鳥」の2つだけ。どちらも子どもの心のひだを丁寧に描く作品だった。本書は少し違って、主人公は小学生、中学生、高校生、大学生、20代、30代、40代、60代、とバラエティが豊かだ。
その中で、高校生、大学生が主人公の「拝復、ポンカンにて」「島小僧」「お兄ちゃんの帰郷」は、どれも進学を期に、田舎から東京へ行く男の子の物語だ。「上京」を広い世界への旅立ちと捉える向きもあるが、本書の作品はそうばかりではない。どれも、出て行く時や出て行った後の葛藤がある。
大学への進学で一人暮らしを始め、就職で上京した私には、彼らの葛藤に共感し、リアリティを感じた。そして上京から四半世紀経った今は、その葛藤を微笑ましくさえ思う。「頑張れよ」と声をかけたくなった。
リアリティを感じる、と言えば、表題作の「ツバメ記念日」もそうだった。主人公の女性は会社で「最初の総合職採用」。実は、私の妻もそうだった。詳しくは書かないけれども、制度が先行して、会社も社会もが何周も遅れていた「男女雇用機会均等法」の下で起きた、ある種の悲劇だ。
幸いにも私の妻は彼女自身の判断もあって、こうしたことにはならなかった。しかし私は妻と同い年で、私の同期入社の女性たちの多くも「最初の総合職採用」だった。その働き振りを近くで見ていたが、彼女たちの誰にでも同じことが起きても不思議ではなかった。
12編の中には、正直に言って納まりが悪く感じられるものもある。しかし、著者はフリーライターを生業としている。さすがに様々な現実を見てきた蓄積を感じる。
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ツバメ記念日―季節風 春 / 重松清
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新聞に掲載されていたものを集めた、短編集。
重松さんらしく、恋人 …
YO-SHIさん こんにちは。
レビューを見ていたら、このシリーズの夏・冬を未読だったことを思い出しました。
春から季節をたどって読むと良いですよね。
重松さんの書く話はどれも、リアリティを感じます。
かならずどこか自分と共通のところがあり、こんな時もあんな時も…と本を読みながら今までを振り返ることが多いです。
重松さん、「何か欠けたもの」を書くのが本当にうまい!と思うのですが、いかがでしょうか?
たかこさん、コメントありがとうございます。
季節ごとに読もうと思っています。
「夏」はもう一月か一月半ぐらい後でしょうか。
「何か欠けたもの」ですか。なろほどその通りですね。
そして「欠けたもの」を、何としても取り戻そうとするのではなくて
欠けたままでも、顔を上げて前を向ける。そのための「何か」を描く。
そんな感じでしょうか?