著 者:三崎亜記
出版社:集英社
出版日:2005年1月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
著者のデビュー作で、2004年の第17回小説すばる新人賞を受賞。私は、本書の2年後に発表された「失われた町」を読んで、そのレビューで「私には、すごく面白かった」と書いた。それに「「私には」とわざわざ付けたのは、これはダメな人には徹底的にダメだろう、と思ったからだ」と続けた。
舞台は、舞坂町という人口1万5千人余りの地方の町と、その「となり町」。主人公は北原修路。一人暮らしの独身男性。となり町を挟んで舞坂町の反対側にある、地方都市の会社に勤めている。物語は、ある日届いた「広報まいさか」の記事から始まる。その記事の題は「となり町との戦争のお知らせ」。
この「戦争」は、何かの比喩でもなければ、悪趣味なネーミングの行事でもない。実際に戦死者が出る戦闘行為を行う「戦争」なのだ。しかし、この「戦争」は、舞坂町と「となり町」で行う、財政健全化や活性化を目的とした「共同事業」だという。北原修路は、町の「となり町戦争」担当の香西瑞希と共に、となり町の偵察任務につく。
「町の事業として「戦争」をする」とは、突飛な設定だ。しかし、「辞令交付式」に始まって、「業務分担表」やら「地元説明会」やら「文書起案」やらの、「お役所」を誇張するエピソードが繰り返されると、違った見方もできそうだ。つまり「お役所」なんて、地域活性化とかの「大義名分」と、稟議の決裁という「体裁」が整えば、どんなに突飛なことでもやってしまいそうだ、と。ちなみに著者は本書の執筆時には市役所職員だった。
冒頭に紹介した「失われた町」も「町が消滅する」という突飛な設定だった。「ダメな人には徹底的にダメだろう」と思った理由はそれで、物語を受け入れるためには、その突飛な設定を受け入れなければならないからだ。そのためには「何か」が必要なのだ。「失われた町」ではその「何か」は、町の消滅に立ち向かう人々の生き方だった。私はそこに感銘を受けた。本書には、その「何か」を感じられなかった。
人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)
こんにちは。^^)私は、この「隣町戦争」は、まったくダメでした。
最後まで読んだけど。戦死者がでるのですから、もっと、悲惨なはずなのに、そういう記述などなしで、話が進んでいくところが、感覚的に無理だったです。
きよりんさん、コメントありがとうございます。
「まったくダメ」でしたか。そのお気持ちが分かる気がします。
追われたり、知っている人が死んだりと、それなりに危険や死が近くに
あるのに、なぜか主人公が傍観者にしか感じられないんですよね。
中々アイロニカルな内容のようですね。筒井康隆を思い出しました。この人も好き嫌いが分かれる作家ですね。
お役所は一度決定した事は変更しないという柔軟性に欠ける部分があるので、YO-SHIさんの書評から、そこを巧く小説化した作品という印象を受けました。
こんばんは(*^_^*)
私は「失われた町」「海に沈んだ町」は読んだのですが
(「海に沈んだ~」は私好みでとても面白かったです♪)
どうしても、この本は手がでないでいます
「戦争」がダメなんでしょうね・・・
有川さんの「図書館戦争」も、実は「戦闘シーン」がものすごく苦手だったりします
敦さん、コメントありがとうございます。
「アイロニカル」というには、ちょっと毒が無い感じですね。
そうか、もう少し毒があれば風刺が効いた違った印象の作品に
なって、それはそれで良かったかもしれません。
筒井康隆さんのご自宅は、私の実家の近く(向かい側の高台)に
あって、駅前の書店に時々来ているという噂を、私が中学生の頃
に聞いたことがあります。
—-
十六夜さん、コメントありがとうございます。
私は「失われた町」の方が、良かったです。「海に沈んだ町」も
今手元にあるので、すぐにでも読みたいと思います。
「図書館戦争」の戦闘シーン。私は苦手というのではありませんが
ストーリーから浮き上がった感じはしていました。
「図書館の自由」を巡って武器を手にする、というのがうまく
飲み込めないんですね。
でも、これはシリーズの基本設定なので、飲むしかないんですが...
『となり町戦争』
三崎亜紀 『となり町戦争』(集英社文庫)、読了。
突然、町役場がとなり町と戦争を始めた・・・・。
ファンタジーの世界で現実を皮肉る作品かと期待してました。
全然、物語の設定は違うのですが、『……