著 者:坂木司
出版社:東京創元社
出版日:2002年5月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。
著者はプロフィールを公開していないので、経緯の詳細は分からないのだけれど「あとがき」によると、東京創元社から「小説を書いてみませんか」と言われて書いた作品が本書。つまり、本書は著者のデビュー作。27歳の「ひきこもり」男性が事件の謎を解くミステリー短編集。
主人公で語り手は、著者と同名の坂木司。事件を謎を解くのは鳥井真一。二人は中学校以来の付き合いで、坂木は鳥井が気を許せる唯一の人間。坂木がいなければ、鳥井は誰とも話せないし、500メートル先の「いつものスーパー」にも行かない。ある事件の謎を鳥井が見事に解き明かしたことから、鳥井の探偵並みの謎解きの才能に気が付いた坂木は、鳥井の外の世界との接点を増やそうと、事件を持ち込むようになった。
「事件」と言っても凶悪なことは起こらない。独身男性が女性にバッグで股間を一撃された、盲目の男性が双子に跡をつけられた、歌舞伎役者のところにファンから意味不明の贈り物が届く、等々。被害者にしてみればその時は深刻なことには違いないが、放っておけばなくなってしまうような事件。いわゆる「日常に潜む謎」だ。
本書は二通りに見立てることができる。一つは上に書いたように「日常に潜む謎」を扱うミステリー。加納朋子さんの作品に近いものを感じる。もう一つは、人と人との間の関係の変化・回復を描いたハートウォーミング劇。事件の裏には傷ついた人間関係があり、事件の解決はその回復なくしては成らない。それは坂木と鳥井の関係にも影響することになる。
ミステリーの部分では、加納朋子さんの作品が好きな私は、本書の謎解きも楽しんだ。ハートウォーミング劇も基本的に好きだ。鳥井は特異なキャラクターだけれど、伊坂幸太郎さんの「チルドレン」の陣内や「砂漠」の西嶋らに似て、好感が持てた。だた、坂木と鳥井の関係は、好悪が半ばした。
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