「ニート」って言うな!

著 者:本田由紀、内藤朝雄、後藤和智
出版社:光文社
出版日:2006年1月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 皆さんは「ニート」という言葉にどんな印象を持っているだろう。働かないで遊んでいる。他人とのコミュニケーションが苦手。引きこもりがち。親に依存して自立していない。甘えている。ネガティブな表現を並べてしまったが、こうしたイメージを抱く人は多いだろう。私もそうだったし、私の家族に聞いてもそうだった。

 このイメージとそれへの支援策が歪んでしまっている、というのが本書の主張だ。こういうイメージ通りの若者は確かにいるが、それはごく少数で増えてもいない、ということだ。本書によると、職に就かず求職活動もしていない若年層は85万人(内閣府:2002年)いるが、求職活動をしない理由は様々で、上に挙げたネガティブなイメージのような、本人に起因するものは非常に少ない。

 「本人に起因するものは非常に少ない」。この事実を捉えそこなった、あるいは意図的に無視したことが、歪みの原因であるようだ。何が理由なのかというと、「その他」を除けば、1番は「病気やけがのため」で2番は「探したが見つからなかった」で、2002年までの10年間で、前者は1.6倍、後者は3.3倍に増加している。
 「病気やけがのため」は、「仕事経験あり」の人が「なし」の2倍もいる。過酷な労働環境が原因になっている場合が含まれるのだろう。「探したが見つからなかった」は、同じ時期の失業者が129万人(2002年)、フリーターが213万人(2004年)、ともに10年で2倍以上になっていることを考えると、経済・雇用の悪化が原因だろう。つまりニート問題は「労働環境」や「経済・雇用」という、企業や経済の問題なのに、本人の資質・性格の問題としたことが間違いなのだ。そして、そこから導き出した支援策も間違えている。

 少し想像力を働かせてみよう。ニート支援策と言えば「若者自立支援塾」などの、生活訓練などによって勤労観や働く自信や意欲を培うものが筆頭に挙げられる。これを、前の仕事や求職活動がうまく行かずに身心が疲れた人に、「職に就けないのはあなたのせい」とばかりに適用しようとする愚は、容易に想像できる。
 かつて自民党の武部幹事長がニート、フリーターに触れて言った「1度自衛隊にでも入ってサマワみたいなところに行って..」という発言がひんしゅくを買ったことがあるが、問題を本人の資質に帰した点では、根はこれと同じなのだ。しかし、ネガティブなイメージを内包してしまっている「ニート」という用語を使っていると、これに気づくのはなかなか難しい。だからもう使わない方がいい。「「ニート」って言うな!」というタイトルはそういうわけだ。

 本書が出版されたのは2006年1月。5年も前だ。当時、それなりに評判になったと記憶しているが、本書の指摘が活かされた形跡は、残念ながら感じられない。確かに「ニート」という言葉自体は、一時ほど聞かれなくなった。朝日新聞の記事数を調べてみたところ、2006年の553件をピークに年々減り続け、2010年には117件になっている。しかし、これはこの問題の解決を意味してはいない。「流行」が去っただけなのだ。実はこのことも本書の「あとがき」で、そう予想されている。

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