下流の宴

著 者:林真理子
出版社:毎日新聞社
出版日:2010年3月25日 第1刷発行 2011年6月15日 第13刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、毎日新聞に2009年3月から12月まで連載されていた、新聞小説を単行本化したもの。NHKでテレビドラマ化されて現在放映中だし、奥付を見るともう13刷にもなっている。きっと評判がいいのだろう。

 物語は、複数の人物を順に追って3人称で描く。48歳の主婦の福原由美子、その娘で女子大生の可奈、息子で20歳のフリーターの翔、翔の恋人で22歳の宮城珠緒の4人が主な登場人物。この他に福原家と宮城家の人々が、物語の要所で絡んでくる。

 由美子は、自分たちが中流の「ちゃんとした」家庭なのだ、という思いを心の拠り所にしている。教育評論家の意見を参考にして、ちゃんと子育てをして来た。それなのに翔は高校を中退し、20歳を過ぎて家出をしてしまった。今は、珠緒のアパートに住んでマンガ喫茶でバイトをしている。
 珠緒はと言うと、沖縄の離島出身で高校卒業後に上京、リサイクルショップでバイトをしている。母は故郷の離島で飲み屋を開いている。両親は離婚していてそれぞれが再婚。両方の家で弟や妹が生まれて、珠緒を入れて全部で8人、小さな島ゆえにみんな姉妹兄弟のように育った。

 翔と珠緒が結婚すると言い出したことから、由美子の心の拠り所が危うくなる。いや、もっと前から由美子が思う「ちゃんとした」家庭ではなくなっていた。しかし、それは一時的なものだと自分に思い込ませてきたのだ。由美子には、「下品」で「無教養」な「あっちの人」の珠緒が、自分たち家族の敵に見えた。家族を守るためには敵を排除しなくてはならない...。

 上にも書いた通り、評判は良いのだろう。誇張はあっても由美子のように振る舞う母はいそうだし、リアリティを評価する声もあるらしい。ただ、私にはあまり合わなかった。私は物語にリアリティよりドラマを求める。この物語は、私にとってはヤマなしオチなしでドラマを感じなかった。
 もう一つ。登場人物の誰にも共感を覚えなかったのも辛いところだ。強いて言えば、由美子の夫の健治は、私と立場が似ていることもあって、その意見に頷くこともあった。ただ、彼の意見は由美子が言う通り「他人事」で、共感を感じるとまでは言えなかった。自分の子どもに翔と同じことが起きたらどう思うか?それは、なってみないと分からない。

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2つのコメントが “下流の宴”にありました

  1. これは新聞連載中に読んでいました。挿絵がけっこう強烈で、私は「珠緒(凄くブサイクに描かれてました)、負けるな」と思いながら読みました。他の新聞連載小説だと、途中で読まなくなってしまったりするのですが、この小説は毎日の短い文字数の中に引きがあって、忙しい時にもついつい読んでしまったのを憶えています。その辺りが、やはり人気作家である理由だろうと友人と話したりしました。

  2. YO-SHI

    敦さん、コメントありがとうございます。

    先が気になる物語でした。先へ先へと読み進めてしまうような。
    長期にわたって読んでもらわないといけない新聞小説には、
    特に必要なことですね。

    ただ、珠緒や翔の考え方は私とは相いれませんでした。
    だから私は「負けるな」とは思えませんでしたね。

    もちろん由美子にも共感はしないです。
    でも、年齢が近いせいか、人を見下すような部分を除けば、
    結婚とか人生についての考え方は由美子と近いものを感じます。

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