著 者:木村俊昭
出版社:実務教育出版
出版日:2011年9月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。
タイトルにある通り、本書は「まちおこし」をテーマとした本だ。例として冒頭に「人口5万人の地方都市・A市」のことが紹介されている。A市ではまず、「商店街活性化委員会」を、市長、市議会、会議所や近隣の大学などをメンバーにして立ち上げて、検討した政策を実行することで、中心部の商店街に人が戻るようになった。次いで、「企業誘致推進委員会」によって企業誘致にも成功、「温泉地域活性化委員会」では観光客の増加を果たした。
一見して見事な成功例だ。しかし著者はこれを「失敗例」として挙げている。著者は、元市役所職員で、今は「地域活性化伝道師」として地方を飛び回っているらしく、さすがに地方の「実情」を一段深いところまで心得ていらっしゃる。実はA市のやり方はたくさんの地方都市で(私が住む街でも)行われているのだ。それでいて地方が(私が住む街も)一向に元気にならない。つまり著者の言うとおり、このやり方は「失敗」なのだ。
著者の意見では、このやり方は「部分最適化」の方法で、街全体が活性化する「全体最適化」ではない、というところが問題なのだ。確かに中心部の商店街に人が集まっても、その商店街の人以外の大多数の住民には、特に良いことはない。商店街以外の場所で店を営む人にとっては、「害」しかない。市の貴重な財源をつぎ込むのなら、全体を見て「害より利の多い」施策が必要だ。
本書には、こうした著者の考えを踏まえた「成功例」が18事例紹介されている。皮肉な話だけれど、読み終えて感じるのは「まちおこし」の難しさだ。著者が「成功例」として挙げた事例でさえ、「全体最適化」を自治体単位で実現している例はいくつもない。
これは本書の問題点だと思うが、同時に大事なことを表していると思う。それは「「まちおこし」は小さな単位でやるべし」ということだ。本書の事例の中でも「全体最適化」と言えるのは、人口320人の集落や、多くても5千人弱の村や町だ。
5万人や10万人、20万人といった地方都市では「全体最適化」はとても難しい。その場合はもっと小さな自治会などの単位で考えないとダメだろう。そのためには、そこに住んでいる人自身が中心になる必要がある。ここにタイトルの「自分たちの力でできる」という言葉が生きてくる。
これは「自分たちの力でしかできない」ということでもあり、さらに換言すれば「自分たちがやらなければ誰もやってくれない」ということだ。紹介された成功事例よりも、このことの方が私には重要に思えた。
この後は、書評ではなく、本書を読んで思い付いたことを書いています。取りとめもありませんがお付き合いいただける方はどうぞ。
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(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)
「まちおこし」の前に「村おこし」という言葉が使われていたと思います。朝日新聞の記事検索で調べてみると、1985年には、「村おこし」が20件、「まちおこし」は1件です。しばらくは「村」に比べて「まち」はあまり使われず88年には「村」100件、「まち」41件。それが91年に逆転して「村」158件、「まち」203件です。
その後は「村」が減り「まち」は急増し、2010年は「村」56件、「まち」955件です。これは合併によって「村」が減ったことも一因でしょうが、やはり村の過疎化よりも、人口の多い「まち」での諸問題が、相対的に大きくなってきたことの表れでしょう。
その諸問題とは、人口減少と高齢化、「シャッター通り」と揶揄される商店街、製造業の空洞化、農業の後継者不足などでしょう。著者によると「全国のまちが悲鳴をあげています。」ということです。見渡せば、私の住む街でも問題はそこここに顔を出しています。確かに「まちの悲鳴」が聞こえてくる気がします。
「地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?」の記事にも書きましたが、私はわが街のTMO(中心市街地活性化)構想策定の委員をしていました。まぁA市の「商店街活性化委員会」のようなものですから、著者に言わせれば「失敗例」です。それを甘んじて受けるしかないのは、私自身がよく分かっていますが。