著 者:三浦しをん
出版社:双葉社
出版日:2011年9月18日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」のお友達の日記で知った本。
著者はその作品「仏果を得ず」で、文楽の奥深い世界を、若手の大夫(文楽で情景やセリフを語る役)の目を通して、小説の形で垣間見せてくれた。本書では、同じことを文楽の劇場の楽屋への「突撃レポート」風のエッセイの形でやってくれた。「仏果を得ず」と合わせて読むといいと思う。
著者はまず、三味線の鶴澤燕二郎(2006年に鶴澤燕三を襲名)さんの楽屋に行って、かなり面白い(どうでもいいような)質問をしている。「みなさんで飲みに出かけたりはするんですか?」とか。「楽屋の部屋割りはどうやって決めるんですか?」とか。しかし、その(どうでもいいような)質問が、思いがけず文楽の伝統を感じさせる答えを引き出す。
そんな感じで、次の回は人形遣いの桐竹勘十郎さんのところへ行って、何と人形を持たせてもらっている。著者曰く「美少女との初デートで、思いがけずはじめての接吻までこぎつけた」ようなものだ。そしてまた、燕二郎さんのところへ、勘十郎さんのところへと、行き来して、後半では大夫の豊竹咲大夫さんにもお話を聞いている。皆さんご協力ありがとうございます。(と私までお礼を言いたいぐらい、文楽の演者の皆さんは協力的だった)
そんな「突撃レポート」を挟むように、文楽の主な演目の解説がある。著者独自の視点から、登場人物にツッコミを入れながらのユニークなものだ。特に「仮名手本忠臣蔵」の章は、量的にも質的にも圧巻だった。これを読んで「仮名手本忠臣蔵」を観に行けば、何倍も楽しめることだろう。
文楽に限らず「楽屋」というのは興味深いものだ。舞台の裏側を覗いてみたいということもあるが、演じている「人」のことを知りたい、というのも大きい。本書はその両方を満足させてくれた。「人」に興味があるのは著者も同じらしく、江戸時代の文楽の作者の人となりにまで想いを馳せている。それがまた思いがけず慧眼であったことが、巻末の「解説」に記されている。
冒頭の(どうでもいいような)質問といい、この文楽作者の人となりといい、「思いがけず」良い結果を生んでいるんだけれど、これはもしかして著者には、ものすごい才能があるということなんじゃないだろうか?
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