著 者:タニス・リー 訳:浅羽莢子
出版社:早川書房
出版日:2008年9月15日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」で、少し前に話題になった本。
英国の女性作家による「幻想文学」。英語にするとFantasyで、ハヤカワ文庫の分類もFT(ファンタジー)なのだけれど、日本語の「ファンタジー」という言葉ではしっくりこない。「幻想文学」が、この物語が持つ退廃的な怪しさと妖しさを表すのに適した言葉だと思う。
主人公は、地底の王国に君臨する絶大な魔力と美貌を誇る妖魔の王、アズュラーン。彼は、地上に姿を現しては、災いの種をまき、気まぐれに人間の運命を弄ぶ。例えば、災いを招くと知っていて、地底界の宝でできた首飾りを地上にもたらす。また、自分を拒んだ娘への意趣返しに、娘の婚礼の夜に花婿をおぞましい怪物に変えてしまう。
「退廃的」「怪しい」「妖しい」と修飾語を重ねてきたけれど、さらに加えると「エロティック」で「不道徳」だ。こんな物語が許されていいのか?と問うてみたいが、少なくとも私は許してしまった。目を背けることなく(背けられずに?)、最後まで読んでしまった。
物語というものはかなり時代が下ってくるまでは、エロティックで不道徳なものもたくさんあったようだ。それは、アンドルー・ラングの「ももいろの童話集」を読んだ時にも思ったことだ。日本の民話を調べてみると、教訓的な改変が後世にかなり為されていることがすぐ分かる。
そして、この物語を読んでいると「千夜一夜物語」が思い浮かんだ。短めの話が互いに関連しながら続く形式や、砂漠の国が登場する、エロティックなシーンがある、という理由もあるが、そういう明確な特徴ではなく、語りから感じる雰囲気がそう思わせるのだ。
と思ったら「訳者あとがき」で、「これはリー版「千夜一夜物語」だ」と訳者の浅羽莢子さんの感想が披露されていて、そう意図して訳したことが書いてあった。さらには、著者本人も「千夜一夜」を意識したものだと認めているそうだ。
英語の文体から「千夜一夜」を読みとって、私にも分かるように「千夜一夜」っぽく訳すなんて、すごい。職人技だ。翻訳という仕事は、そこまでできることなのだ。
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