誰かが足りない

著 者:宮下奈都
出版社:双葉社
出版日:2011年10月23日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」と同じく、私にとっては著者の初めての作品。私は本屋大賞を、新しい作家さんとの出会いに使っている。

 駅前の広場に面した「すごくおいしい」と評判のレストラン「ハライ」。本書はこのレストランにまつわる6つの物語からなる。と言っても、レストランそのもののシーンはごくわずか。それぞれの物語の主人公たちが「ハライ」へ食事の予約を入れる、という形で関わっている。さて、人はどんな時に「すごくおいしい」レストランで食事をしようと思うのでしょう?

 それは例えば、何かのお祝いであったり、歓迎会や送別会であったり、慰労や激励のためであったりと、何かの節目を迎えた時に思うことが多いだろう。6つの物語は、お祝いでも歓送迎会でも慰労・激励会でもないけれど、主人公たちが新しいことに向かう節目を迎え、「ハライ」に予約を入れる。物語はそれぞれの「節目」に至る様子を描く。

 主人公たはみんな、変わり映えのしない平凡な日常を生きている。その平凡な日常を平凡に描くだけでは退屈してしまう。正直に言って退屈しかけた。しかし、平凡な中にも小さなトゲは存在するし、変わり映えがしないこと自体が重荷にもなる。本書は、その小さなトゲや重荷を丁寧に描くことで、その退屈さを免れ、「節目」に至ることで、小さな暖かさを読者の胸に残す。

 6つの作品はそれぞれ「予約1」「予約2」…「予約6」とタイトルが付けられている。後ろにいくほど退屈さを感じることなく、物語に引き込まれた。「予約5」はあっさりとしたユーモアと意外な展開があり、「予約6」はそれまでとは異質な緊張感が漂う。

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誰かが足りない”についてのコメント(1)

  1. 粋な提案

    「誰かが足りない」宮下奈都

    予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られな……

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