著 者:小川洋子
出版社:中央公論新社
出版日:2011年2月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。
地球の裏側にある村の山岳地帯で、反政府ゲリラに拉致され人質となった、日本人ツアー客と添乗員の8人。百日以上が過ぎた後、人質が拘束されているアジトへ特殊部隊が強行突入。結果、犯人グループは全員射殺、同時に人質8人も全員、犯人の仕掛けたダイナマイトで爆死した。
本書は、その拘束された生活の中で、人質たちが自ら書いた話を朗読する声を録音(盗聴)したもの、という設定だ。それぞれが「僕」「私」という1人称の物語になっていて、自らの過去の物語、未来がどうであろうと決して損なわれることのない「過去」を語っている、とされている。
こんな設定ではあるが、まぁ人質8人と+1人分の全部で9つの短編集だ。同じツアーに参加したという以外には共通点がない人々が、自分の過去を語っているのだから、物語にもつながりはない。ただ、「人質」という共通の状況からか、「死」というものが遠くに近くに見える話が多い。
本屋大賞にノミネートされているし、私の周囲からも良い評価が聞こえくるのだけれど、私はそれほど良く思わなかった。いやいや、それぞれの物語は、情景が思い浮かぶような、静かな余韻を残す著者らしい物語ばかりで、なかなか良かった。
単純な短編集としてなら良かったのだけれど、本書のキモは「人質がそれぞれの過去を語る」というシチュエーションにあると思う。未来どころか明日をも知れない状況で話す一言一言は、それだけで特別な重みがあるはずだからだ。問題は、そのシチュエーションに、読者がどれだけ感応できるか、というところにある。
私にはその感応力が無かった、ということなのだ。上に「著者らしい物語ばかりで..」と書いたが、これには皮肉もこもっていて、言い換えればどれも著者が書いた物語に思えてしまった(もちろんそうなのだけれど)。これでは「それぞれの過去を語る」という受け止め方ができなかった。
「人質がそれぞれの過去を語る」というシチュエーションは、類稀なるセンスだと思う。年齢や職業を付記するというアイデアも良かった。だからこそ、それぞれの人物の個性を感じる物語や語り口が欲しかった。
この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。
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書籍「人質の朗読会/小川 洋子著」もう今はここに居ない人達のお話を読む
書書籍「人質の朗読会/小川 洋子著」★★★★
小川 洋子著 ,
中央公論新社、2011/02
( 247ページ , 1,470円)
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