量子力学が明らかにする存在、意志、生命の意味

書影

著 者:山田廣成
出版社:光子研出版
出版日:2011年11月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「感じる科学」の記事にコメントをいただいた、著者の山田廣成さまから著書を貸していただきました。感謝。

 著者は、大学の理工学部で教鞭をとる物理学の教授。プロフィールを拝見すると、特に放射光工学の分野で数多くの発見発明を成し、学界だけでなく産業界にも大きく貢献していることが伺える。その著者が、量子力学の諸問題から発して、生命科学から経済・社会、思想・哲学にまで論を展開する。

 本書の要諦は「電子に意志がある」という主張と、そこから導かれた「対話原理」という、量子力学のミクロの現象から社会現象までに応用できる統一原理にある。「電子に意志がある」とは、電子と人間のそれぞれの振る舞いの類似性に端緒がある。

 例えば、極細のワイヤーに電子を通すと、電子は等間隔に移動するのではなく、粗密が発生する。これが、渋滞の高速道路と非常に類似している、という具合。道路で車が一様に流れないのは、車のドライバーの意志によるところが大きい。ならば、電子にも意志があるのではないか?こう考えると、その他にも類似性がたくさんある...というわけだ。

 もちろん人間と全く同じような意志を電子も持っている、というのではない。著者は科学者らしく、この概念でいう「意志」を定義している。その一つに「他者と対話し干渉を起こす実体である」というのがある。電子も他の電子と干渉して、自分の場所を決定する。これが「対話原理」へとつながっていく。

 決して読みやすい本ではないので「皆さんにおススメ」とは言えない。「電子に意志がある」と聞いて「面白そうじゃないか」と思う人でないと辛い。それから、私は門外漢ではあるが、量子力学の世界ではこうした考えは、かなり「斬新」なものだとは想像できる。この「斬新さ」を受け入れられない人にも向かない。

 最後に、この記事を著者も目にされるだろうから、こんなことを言うのは躊躇われるのだが、私は本書が主張する論理は完成したものではないように思う。そして「あとがき」を読んで、著者自身がこの論理は完成品ではなく、さらに磨いていくことを望んでいると、ほぼ確信した。

 「あとがき」には、本書がゼミのテキストとして使われ、学生が積極的に意見を出し、問題点が浮き彫りにされたことが明かされている。私が「ほぼ確信した」のは、その行間から著者の喜びを感じたからだ。本書に対して建設的な批判を多く受ければ、著者が見つけた「対話原理」を使って、この論理はさらに高みを目指せるはずだ。

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4つのコメントが “量子力学が明らかにする存在、意志、生命の意味”にありました

  1. sikunsipota

    はじめまして、ブログ村より、このページに入りました、sikunsipota(ニックネーム)と申します。最近、人間間の齟齬について、ライフワークにしているものですが、人は、己の心身でしか、世の中の現象を認識出来ない世界に生きています。それに加え、各自の心身の認識を相手に伝える手段は、会話、映像、文章ーーなどでしか伝えられませんから、お互いの認識は、それらから、伺い知る事になりますが、所詮、それは、不完全なものとなります。まず、これを前提とした場合、人は、何事を認識するにも、己の心身にて認識する訳ですから、言われるように、森羅万象から、神仏の存在と言いますか、この宇宙の意思を感ずる人も有れば、現実世界に見えるものしか感得出来ない人も存在するのも、これは多様性の考えから致し方のない事と思います。小生の場合は、量子力学においても、不明なる何かが、その作用を選択しているかもしれないーーといわれる考え方には、その可能性を否定しない立場です。もちろん、そうでないとの可能性も否定しません。今回、このような事を書きましたのは、量子力学が明らかにしたーーーと、言われていますが、他の森羅万象においての現象においても、同じような事が言える可能性は存在する事と、何ら代わりは無いのではないでしょうかと思うからですが。どちらの認識でも良いように思います。大切な事は、物質社会においては、その事実であり、精神社会においては、森羅万象を心身において感得することが、住み良い社会、穏やかな各自の人生となるのですから。以上、突然メールさせて頂き驚かれたと思いますが、ご無礼の段、お許し下さい。ご意見等、頂戴出来れば幸いに存じます。孜拝

    追伸、猶、sikunsipotaはブログ村で使用のニックネームです。又、孜は、ML関係のメールで使用しているニックネームです。宜しくお願いします。

  2. YO-SHI

    sikunsipotaさん、コメントありがとうございます。

    「人は、己の心身でしか、世の中の現象を認識出来ない」とは、
    誠にそのとおりだと思います。
    自分が見たいようにしか見ない、という恐れも多分にありますので
    自戒しなくてはいけないと思っています。

  3. Doraemonf

    Yo-shi 様
    忙しくてしばらくブログから遠ざかっていました。
    拙著をお読みいただき大変有り難うございました。。
    大方の皆さんの感想は、読みやすい本ではあるのだが、なかなか難しいと言われますので、貴殿がこの様に短時間でこの本を読まれたことに敬意を表します。
    仰るように、「対話原理」がこの本の核心です。対話原理は、私の自然観ですが、物理学に適用すと、研究を進めるための方法論として役に立ちます。対話原理を適用する事により、非常に短時間に正しい答えを導くことができます。その結果私は数々の発明を成し遂げることができました。そしてこの度、90年続く量子力学の疑問に答えることができました。量子力学が統計原理であることは従来から知られていることですが、何故統計原理であるかを明らかにした結果、量子力学を社会科学や哲学に適用してもよいことが結論されました。
    そこで、私はこの本を物理学の学生や専門家だけではなく、一般の人々にも読んでもらおうと思い執筆したのですが、なかな難しいことです。
    特に年を取った方は、既成概念の固まりになっていますので、そこから抜け出すことはなかなか難しいようです。その点学生は、素直にこの本を受け入れることができるようです。
    若いというのは素晴らしいことで、私たちは若者に期待しましょう。
    学生諸君の感想文を私のブログ(drhironariyamada)で掲載してますので是非訪問下さい。

  4. YO-SHI

    Doraemonfこと山田廣成先生、コメントありがとうございます。

    なかなか難しい、という大方の皆さんの感想は私も同様で、理解できなかったことも
    たくさんあります。ですが、理解できない部分も含めて、興味を持って読むことが
    できました。

    年を取って功なった方々は、新しいことを受け入れるのは難しいのでしょうね。
    私も、この本は若い人の方が受け入れやすい本だと思います。
    (私はもう若くはないですが、本を読むときには「まずは受け入れる」を旨としています)
      

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