誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論

書影

著 者:D.A.ノーマン 訳:野島久雄
出版社:新曜社
出版日:1990年1月25日 初版第1刷 2012年1月25日 初版第26刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、日常使う製品のデザインはどうあるべきか?について書かれたもの。多くの示唆に富む非常に良くまとまった論考だ。実は本書の出版は1990年(原書は1988年)、20年以上前だ。そして今年の1月に26刷と刷を重ねている。それだけ多くの支持を得ているということだが、読んでみてそれも頷ける。

 タイトルの「誰のためのデザイン?」に対する答えは明確で、読み始めてすぐに明らかにされる。それは「エンドユーザー(実際にその製品を使う人)のため」だ。実際に使う人が、煩わされることなく使えるデザインが、優れたデザインなのだ。(ちなみに本書では「たぶん賞でもとっているんでしょう」とは、そのデザインをけなす時の言葉だ)

 例としてドアのデザインを挙げよう。押して開くドアには水平に長いバーを、引いて開くドアには引く辺の側に小さめの垂直の取っ手を付ける。そうすると、人は自然に(つまり、煩わせることなく)ドアを押したり引いたりする。ドアのどちら側を引けばいいかも分かる。
 このドアの例を始めとして、電話機、ガスコンロ、エアコン、照明のスイッチ、水道の蛇口、コンピュータプログラムなど、多くの日常使う製品について例を挙げて論じている。(多くはダメな例が挙げられる)

 もちろん、個々の製品の具体的な「良い例」「悪い例」を挙げるだけでなく、人は何故間違えてしまうのか?それを防ぐにはどうしたらいいのか?良いデザインに必要なものは何か?それはどうしたらできるのか?といった、様々な視点からの汎用性のある考察が述べられている。この具体性と汎用性の双方を満たしていることが、本書が支持される所以だろう。

 デザインに関わる人には読んでもらいたいと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 この本を読みながら、とても多くのことを思い出したり、思い付いたりしました。

 まずは自分自身の体験をいくつか。

 ある温泉に行って浴場から出ようとしたのですが、2枚並んだサッシのドアに何の取っ手もありませんでした。仕方ないので、スライドさせようとドアのくぼみに爪さきを掛けて引いたら、爪がめくれそうになりました。すると隣のドアを「押して」人が出て行くじゃないですか。サッシのドアを「押す」って発想が私にはありませんでした。(もちろん入る時に押して入ってるはずなんですが)

 私の実家の洗面の蛇口のハンドルは、右に回しても左に回しても水が出ません。そのハンドルを上に「引く」と水が出るんです(レバーじゃないんですよ)。水量はその微妙な引き具合で調節します。それも滑らかには動かなくて、ちょっと力を入れると全開になってしまいます。水を止めるときだけは簡単。ドンと上から押せば止まるんですから。

 次に最近のニュースから(こっちはちょっと深刻です)

 オスプレイという軍用機のニュースはご存知でしょうか?米軍普天間飛行場に配備されることになったのですが、これがどうも過去に墜落事故を起こしていて、その安全性が疑問視されています。しかし今日その「安全宣言」が出ました。「墜落事故は、人的要因で機体のシステムによるものではない」という見解です。

 この「人的要因」が問題です。人的要因とはつまり「操縦ミス」ということなのでしょう。操縦という行いが、人と機械との対話である以上、「操縦ミス」には機械の側にも要因があるはずなのです。いや、この本ではもっとはっきりと、「被告席につくべきなのは、いつも間違いなくデザインの方なのだ」と、書いてあります。「事故は操縦ミスが原因だから、機体は安全」なんて、お気楽すぎる気がします。

 本書の中に、スリーマイル島の原発事故のことが書かれています。本書によると、あの事故も「問題を見誤った操作員が悪かった」とされているそうです。事故の原因は圧力開放弁が閉じていなかったこと。しかし、操作員は弁を閉じる正しいボタンを押して、モニターランプは弁が閉じていることを示していたそうです。
 にも関わらず、装置の故障ではなく、操作員が悪いと言われています。その理由は「コントロールパネルの後ろの装置を確認すれば、モニターランプが誤っていることに気が付いたはず」だそうです。

 機械が間違っていても、それに気が付かない人の方が悪いって...

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