鉄塔 武蔵野線

著 者:銀林みのる
出版社:新潮社
出版日:1997年6月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の9月の指定図書。

 第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。ちなみにこの時、池上永一さんの「バガージマヌパナス わが島のはなし」も大賞を受賞、つまりこの回は大賞作が2つということだ。

 主人公は小学校5年生の少年、見晴。舞台はタイトルから分かるとおり、武蔵野。もう少し限定すると、今の西東京市から埼玉県日高市にかけて。時は199×年の夏休み。

 物語の冒頭、見晴は家の近くの鉄塔に「75-1」という番号が付いていることに気が付く。「ということは両隣の鉄塔は「75ー0」と「75-2」なのか?」と思い、一方の隣の鉄塔へ走り出す。その鉄塔の番号は「76」。ならば次は...。こうして見晴少年の鉄塔を巡る冒険が始まる。

 見晴は「鉄塔大好き」少年だ。それは幼稚園に入る前からのことで、その頃日曜ごとに見晴はお父さんに電車に乗りに連れて行ってもらっていた。線路脇の鉄塔を見るために。ただ好きなだけではない。本を読んで、詳しくは分からないまでも専門的な知識もあり、鉄塔の形状などによって、男性型鉄塔、女性型鉄塔などの、独自の分類法を編み出している。

 上に書いた通り、本書は見晴の鉄塔を巡る冒険だ。途中から2つ年下のアキラを相棒にして、障害や小さなドラマを経て、目指すは全鉄塔を踏破し、その下(見晴は「「結界」と呼んでいる)の中心点に、手製のメダルを埋めること。...ここでこう思った方がいるかもしれない「76っていう番号があるなら、全鉄塔って少なくとも80ぐらいはあるんじゃないの?それ全部行くの?」

 もちろん見晴は行くつもりだ。自分で決めた目標は、何としても達成する。自分自身を裏切りたくない。思い出せば誰にも覚えがある、少年らしい頑なな決意がそこにあった。しかし多くの場合、その決意は大人に止められたり、「やっぱりムリだ」とあきらめたり。成就しなかった決意。これも誰にも覚えがあるだろう。見晴の決意はどのような結末を迎えるのか?

 正直に言って途中で、見晴の(つまり著者の)鉄塔に対する熱い想いについていけない気がした。鉄塔を1つ1つ思い入れを込めて語られても、受け止められない。でも、残り本数は確実に減っていく。あるところまで来ると、自分も一緒にゴールを目指しているのに気付く。

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2つのコメントが “鉄塔 武蔵野線”にありました

  1. 鶴帰

    キモチ悪いファンタジーは珍しいのかな。

    最近、ファンタジー大賞の作品にはまってしまって、たどり着きました。
    しかし鉄塔の番号、気になってたときの子供の頃を思い出しました!
    さすがに追いかけはしなかったですけど(笑い)。
    とにかく、さっそく読んでみたいと思います!!

    そもそもはまったきっかけになった作品が、関俊介さん。
    ワーカー改め「絶対服従者」。
    虫たちの気持ち悪いファンタジーで何とも・・・。
    ちなみにあんまり作者情報がないのですが、妙に詳しいサイトが
    見つかっちゃいました。
    http://www.birthday-energy.co.jp/
    結構ご苦労されたみたいですね。
    妙に動き回るとダメそうなので、作家一筋で極められるのか
    試されそうです。

    ファンタジーって、いろいろ手広いんですね。

  2. YO-SHI

    鶴帰さん、コメントありがとうございました。

    日本ファンタジーノベル大賞の作品は、この本と「バガージマヌパナス」
    「太陽の塔」「しゃばけ」を読みました。どれも独特の雰囲気のある作品ですね。

    海外のファンタジーを比較的たくさん読みましたが、日本のファンタジーの方が
    幅が広いように思います。

    「絶対服従者」気持ち悪いファンタジーですか。それはちょっと苦手です。

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