新説 真田三代ミステリー

著 者:山田順子
出版社:実業之日本社
出版日:2013年1月29日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「ロマンはどこだ」。伊坂幸太郎さんの小説「陽気なギャングが地球を回す」の登場人物の口癖だけれど、本書の前半を読んだ私の想いもそうだった。

 様々な「戦国武将人気ランキング」で、必ず上位に食い込む真田幸村。1位ということも珍しくない。ゲームに端を発した、いわゆる「戦国ブーム」にうまく乗ったことは否定しないけれど、以前から一定の評価なり人気なりがあったことも確かだ。

 真田氏が居城の上田城で2度にわたって徳川の大軍を退けたこと。兄弟で徳川方と豊臣方に分かれて戦うことを決めた密談。豊臣への義のために14年の蟄居生活から大坂冬の陣で復活して活躍、夏の陣では家康を追い詰めながら果たせず命を散らせたこと。こうしたエピソードにドラマがあることが人気の基になっている。

 本書の目的の1つは、こうしたドラマを時代考証家の著者が検証することにある。その結論を簡単に言うと、これらには確実な史料が存在しない、後世の創作か少なくとも脚色されたものである可能性が極めて高い、ということだ。

 そこで冒頭の「ロマンはどこだ」につながる。真田幸村に限らず戦国武将のファンは、ある程度はフィクションだと知りつつ、好きになったり楽しんだりしているんだと思う。それをわざわざ「史料がありませんよ」と言うことに、どんな意味があるというのだろう?その「ロマン」はどこにあるのだろう?

 前半の感想はこうなのだけれど、後半は少し趣が違う。後半は著者が真田の郷を実際に歩き、膨大な史料に当たって導き出した様々な推測が述べられている。真田氏がこの地で台頭し、武田氏に篤く用いられた秘密は何か?そのルーツはどこか?等々。

 前半で数々のドラマに「史料が存在しない」と言って斬り込んでおいて、後半では自分の推測をとうとうと述べる。取りようによっては鼻白んでしまいそうだけれど、私は救われた想いがした。真田の郷に立って、その地の400年前の出来事に想いを馳せる。その姿にも私は「ロマン」を感じた。

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