著 者:森博嗣
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年5月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
本書の紹介の前に、私がこの本を読もうと思ったきっかけを紹介しようと思う。Facebookである方が私が以前に読んだ「希望のつくり方」という本のことを話題にしていた。その本の一節に「日本ではあまりにも仕事に希望を求めすぎている」ということが書いてある、と。
実は、私もそのことは常々思っていた。この本のタイトルと、帯の「働くことって、そんなに大事?」というコピーは、そのFacebookでの話題と私の気持ちにフィットした。少し前に著者の「人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか」を読んでいたことも、プラスに作用したかもしれない。
さらに「まえがき」に、「「自分に合った仕事に就かないと人生が台無しになる」というプレッシャーを、大人たちが与えている(中略)本当に気の毒なことだと僕は思う」と著者は書いている。これがまた、私の気持ちを代弁するかのような、モノの見方だった。
その後、第1章「仕事への大いなる勘違い」では、「仕事」についての固定観念を次々とはぎ取っていく。「仕事をしている者は、仕事をしていない者より偉いのか?」「どんな仕事をしているかが、その人の価値なのか?」「仕事は大変なのだと大人は語りたがるが、本当にそうか?」次々と投げかけられる問いに、まっすぐに向き合うことで、本質に近づいていく予感がする。
ただし、本書は「今現在、就職や仕事に悩んでいる人」には役に立たないかもしれない。第4章「仕事の悩みや不安に答える」で、実際に著者が受けた質問や相談に答えているのだけれど、これが(そういう指摘が既にあるそうだけれど)「身も蓋もない」のだ。「職場が殺伐としています」という悩みに、(成果を問う)仕事というものは殺伐としている(ものだ)」と答えたりしている。
「なるほど」と思うものもあった。それは「仕事をしないでやりたいことだけをして人生を送りたい。どうしたらいいか?」という、トンデモな感じの質問への答え。スキーがしたい人は、たぶん滑るのが楽しいのだと思うけれど、その前に上まで登らなければならない。お金を得る手段としての「仕事」はそれと同じで、「やりたいこと」の「準備」や「一部」だ、というもの。
視点を高く持って俯瞰すると、「やりたいこと」があれば、「仕事」をその一部に位置づけることができる。その考えは「仕事」に「やりがい」も「希望」も「人生」さえも預けてしまうよりも、よほど健全で安全だと思う。
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