何者

著 者:朝井リョウ
出版社:新潮社
出版日:2012年11月30日 発行 2013年1月25日 4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 2012年度下半期の直木賞受賞作。1989年生まれの著者は、2012年の春に大学を卒業して就職している。大学生の就職活動を題材にした本書は、最近の著者自身の経験が反映していると考えて間違いないだろう。

 主人公は二宮拓人、就活中の大学生。以前は劇団をやっていたらしい。その他に主な登場人物が4人。神谷光太郎、バンドのボーカルで拓人の同居人。田名部瑞月、光太郎の元彼女、1年間アメリカに留学していた。小早川理香、瑞月の友だちで同じく留学経験あり、拓人のアパートの1つ上の階に住んでいる。宮本隆良、理香の彼氏で同棲中で、就活には興味がないらしい。

 主な登場人物は、隆良も含めて5人全員がいわゆる就活生。この5人が出会って、再来年の春の就職を目指して、就活のスタートを切ったところから物語は始まる。ES(エントリーシート)を書いたり、大学のキャリアセンターに通ったり、模擬面接をやったり....。

 「今のこの時代で団体に所属するメリットって何?」などと言い放ってしまう隆良を除いて、残りの4人は同じ就活生として、協力したり励まし合ったりしながら、ままならない日々を過ごす。「自分で何もしなかったら今のまま。何者にもならない」。そんな人生初めての経験。

 大学生の就活を、自身の経験が鮮やかな内に書き留めただけあって、セリフや描写が瑞々しい。ただこの物語は協力し励まし合う清々しいだけの青春物語ではない。就活は「早抜けのゲーム」のようなものでもある。昨日励ました相手が、明日には内定を自分より早く得るかもしれない。

 その時に「おめでとう」の言葉を口にすることはできても、先を越された想いと折り合いを付けるのは難しい。セリフや描写の瑞々しさは、時には刃物のような鋭さを見せる。ちりばめられたツイッターの書き込みが、実況中継のように彼らの気持ちを伝える。しかし、一皮めくるともう一段下に秘された心理があった。

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