著 者:塩野七生
出版社:文藝春秋
出版日:2013年10月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
著者のエッセイ集「日本人へ」シリーズの「リーダー篇」「国家と歴史篇」に続く第3弾。雑誌「文藝春秋」の2010年5月〜2013年10月号までに掲載された、本書と同名のエッセイ42本を収録したもの。
「危機からの脱出篇」というタイトルは付いているものの、もともとが雑誌の月イチ連載のエッセイなので、折々の様々な話題が俎上に乗せられている。日本とイタリアの政治や社会、ヨーロッパと日本の比較文化論、日々の暮らしの中の話題...。著者がイタリア・ルネッサンスや古代ローマを書く端緒も明かされていて興味深かった。
ローマ史の人物や出来事を引き合いにして現在社会を斬る、それも一切の留保も迷いもなくバッサリと。これが本書の、というより著者の特徴。著者の作品のファンとしては、小気味よくて好ましい。でも、現代の政治家にカエサルのようなリーダーシップやカリスマ性を求めるのは酷というものだ。また、「日本人は○○だから」式の決めつけは、なんだかとても高飛車に感じるし、「バッサリ」と白黒つけられないことの方が世の中には多い。だからとても無責任に聞こえるものもある。
例えば日本の政治について。著者は「決められる政治」の樹立を今の日本の最重要課題としている。だから、先の参院選の自民の大勝には「良かった、と心の底から思った」となる。今は「常時」ではなく「非常時」だから、思ったことをドンドン実行すべし、というわけだ。しかし今の安倍政権に、思ったことをドンドン実行させていいのか?と問われれば、私はNoと言うしかない。
また、著者はカエサルに惚れ込んでいる。だから危機に対して、カエサルのように決断力を持って毅然と、しかもユーモアを忘れずに振る舞うのが理想なのだろう。2010年ごろの米国でのトヨタ車の騒動で、日本人は正直すぎ、真面目すぎ、肝っ玉がないと言う。それで「ときには笑ってしまうような広告も出してはどうだろう」と...。これが何か良い結果に結びつくとは到底思えない。
まぁもっとも著者は、自分の意見が誰にでも受け入れてもらえるなんて、思ってもいないし期待してもいない。そのことが迷いのない文章を生み出すと同時に、少々とんがり過ぎな危うさの元になっている。
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