物語ること、生きること

著 者:上橋菜穂子 構成・文:瀧晴巳
出版社:講談社
出版日:2013年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズ、「獣の奏者」シリーズなどの著者が、その生い立ちから作家になるまでを語った書。講演で自分のことを話した翌日には決まって熱をだす、恥ずかしくて自分のことを本にすると考えることすら「身震いするほど嫌」という著者が、半生を語って本にする決意をした。「作家になりたい子どもたち」の「どうやったら作家になれますか」、という問いへの答えとするために。

 著者が2歳になるかならないかの頃の、おばあさまにしていただいた昔話の数々が、著者の物語の原体験。そこから語り始めて、小学生のころの夏休みの体験、15歳の時に書いたノート、高校生のころにイギリスの作家を訪ねた話へと続く。さらに、著者のもう一つの顔である文化人類学者としての歩みをへて、デビュー作「精霊の木」の発行に至る。おそらく本書の狙いなのだろう、これが「上橋菜穂子という物語」になっている。

 私のような著者の作品のファンには、小躍りするほど嬉しい1冊だ。「守り人」や「獣の奏者」他の作品の創作に関わる話や、込められた想いが記されている。また、巻末には170余りもの「上橋菜穂子が読んだ本」というブックリストが掲載されている。これがまた心憎い。リストを追うと、同じころに同じ本を読んでいることに気が付いて心が躍ったり、今度はこの本を読んでみようという発見があったり。

 とにかく真面目な方なのだと思う。「守り人」の主人公のバルサを描くのに、ウソにならないために古武術を習ったそうだ。そもそもこの本だって「どうやったら作家になれますか」に、意味ある答えをするためには、自分がたどった道程をすべて伝えなければならない、と思ったからだというのだから。

 そして、きちんと心に残る言葉を残している。著者が新しい一歩を踏み出す時の「靴ふきマットの上でもそもそしているな!うりゃ!」という掛け声や、トールキンの言葉だったか?という「すべての道が閉ざされたときに新しい希望が生まれる」というフレーズが心に残る。私は、著者が話しかける「子どもたち」ではもちろんないけれど、すごく励まされた。

 最後に。記事中に「著者」という言葉を使ってきたが、厳密には上橋菜穂子さんがこの本を書かれたのではない。本書の文は瀧晴巳さんというライターさんが、上橋さんに対する取材を繰り返し行って書き起こしたものだ。作家からこれだけの物語を引き出したのは、瀧さんの功績だと思う。

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3つのコメントが “物語ること、生きること”にありました

  1. 日々の書付

    「物語ること、生きること」 上橋 菜穂子 瀧 晴巳

    「作家には、二種類ある。作家という職業になりたいものと、書かずにはいられないものだ。」そう書いたのは有川浩先生ですが、精霊の守り人や、獣の奏者などの名作ファンタジーを生み出した作家、上橋菜穂子先生も、書かずにはいられない作家だと思います。
    「物語は、私そのものですから」
    「物語ること、生きること」は、「どうしたら作家になれますか?」という、子どもたちの必死の思いに、同じように作家になりたいこどもだった上橋先生が、作家になるまでの道のりをインタビュー形式で語ってくれた本です。
    物…

  2. 日月

    有川浩さんが、「作家には作家になりたい人間と、書かずにいられない人間の二種類がある」といっていましたが、上橋さんもあきらかに後者なのだなと読んでいて感じました。
    設定と美形キャラだけでゴリ押しするような、作家たちに読ませてやりたいです。
    小説の話だけでなく、上橋先生のもうひとつの職業である文化人類学者としての側面が今回明かされたのも興味深い内容でした。

  3. YO-SHI

    日月さん、コメントありがとうございます。
    それから、いつもトラックバックをいただいて、ありがとうございます。

    「物語は、私そのものですから」という著者は、まちがいなく「書かずにいられない」方でしょうね。
    私は、文化人類学者としての著者にはそれほど興味がなかったのですが、この本を読んですぐに「隣のアボリジニ」も読みました。なかなか興味深い本でした。

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