ランチのアッコちゃん

著 者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2013年4月21日 第1刷発行 6月3日 第7刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。これまで著者のことを知らなかったけれど、これまでに単著で10作品も刊行されていて、平成25年下半期の直木賞候補になっている。ちょっと注目していこうと思う。

 表題作「ランチのアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「ランチの~」の主人公は澤田三智子。麹町の小さな教材専門の出版社の派遣社員。4年付き合った彼と別れて落ち込んでいる時に、職場の女性部長から「ランチの交換」を申し込まれた。三智子が部長にお弁当を作る代わりに、部長がいつも行くお店で食べるランチ代を出してくれる。

 この部長に社員が密かにつけたニックネームが「アッコちゃん」。三智子はアッコちゃんが指示したお店でランチを食べる。それは新しいお店であり、新しい人との出会いであり、新しい経験であり、新しい世界だった。三智子はそうしたものを干天の慈雨のように吸収していく。

 次の「夜食のアッコちゃん」は「ランチの~」の続編。どうやら翌年の話らしい。出版社が倒産して三智子は派遣先が変わった。そこで女子の正社員と派遣社員の対立の板挟みになって悩んでいた。そこに、ワゴンの「ポトフ屋」を新しく始めたアッコちゃんが現れる。

 その次の「夜の大捜査先生」と「ゆとりのビアガーデン」は、主人公を変えた物語。アッコちゃんのポトフ屋も登場するので、同じときの同じ場所の話だと分かる。「夜の~」は、昔「コギャル」だった30歳の契約社員の話。「ゆとりの~」は、大手商社の社内ベンチャーを3か月で辞めた「使えない社員」の話。

 4編を通して共通して感じるのは、人は「出会い」によって成長したり変わったりすることだ。「~アッコちゃん」の2編は、アッコちゃんが出会いを三智子に意図的に与える。他の2編はもう少し自然に出会いが起きる。主人公たちは少し晴々して物語の終わりを迎える。

 本書はファンタジーなのかもしれない。「現実離れ」と揶揄しようというのではない。確かに「うまく行きすぎる」と思う。リアリティを大事にする人からは評価されないだろう。でも、アッコちゃんのワゴンは、敢えてちょっとリアリティを超越した登場の仕方をする。その時、物語がフッと重さをなくした感じがして、「うまく行きすぎ」てもOKと思えてきた。

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