著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2013年9月13日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
昨年9月に発行された著者の近作。第48回吉川英治文学賞受賞。ノンシリーズ作品だと思って読み始めたのだけれど、十数ページで登場人物が「加賀」の名前を告げる。なんと「加賀恭一郎」シリーズだった。否が応でも期待が高まる。
テレビドラマのように、場面ごとに登場人物が入れ替わるのだけれど、主役は加賀の従兄弟で警視庁捜査一課の刑事の松宮。足立区の小菅で遺体が発見された殺人事件の捜査を描く。加賀は日本橋署の刑事だから「管轄外」だ。
刑事たちの地道な聞き込みによって、捜査の輪が狭まっていく様はとてもスリリングで、本書の魅力はそこにある。「どれだけ無駄足を踏んだかで捜査の結果が変わってくる」加賀の父親の口癖だというこの言葉が生きる展開だった。
また、徐々に明らかになる事件の背景が悲しい。殺人という行為は許されるものではないけれど、「悪人だから」事件を犯してしまうわけではない。物語の終わりに判明する「犯人」の描写までが細やかなことも魅力のひとつだろう。
本書にはさらにもうひとつ、シリーズ作品としての魅力がある。加賀恭一郎その人自身について、かなり深く描かれていることだ。事件を追う中に、加賀の生い立ちが垣間見える。彼が「新参者」で日本橋署に来て、街に溶け込み街の隅々に気を配るような捜査をするのには、理由があったことが分かる。
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