著 者:香取俊介 田中渉
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2014年7月23日 1版1刷
評 価:☆☆☆(説明)
本書は幕末から明治・大正と生きた実業家、渋沢栄一の言動を現代に伝えようとしたもの。渋沢栄一は、王子製紙、東京ガス、東京電力、帝国ホテル、東京商工会議所、東京証券取引所、複数の銀行など、なんと500に近い会社や機関の設立に関わった人物。日本資本主義の父とも言われる。
「その言動を現代に伝える」となれば、一般的には伝記にするか名言集にするか、といったところだろう。本書はちょっと趣向が違う。主人公の高校生の大河原渋が、何と幕末にタイムスリップして、渋沢栄一その人と行動を共にする。
だから、完全なフィクションなんだけれど、後で調べたところ、大河原渋の存在以外の出来事の多くは、記録に残った事実なので「伝記」としての性格もある。さらに、重要な言葉は太字にしてあり、巻末にもまとめられているので「名言集」にもなる。
さらに後半は、大河原渋の起業が描かれ、ちょっとした経済小説+自己啓発本にもなっていて、ラブストーリーまで組み込まれている。なんともハイブリッドな作品だ。「伝記」や「名言集」は退屈で..という人でもこれなら読み通せるかもしれない。
ただし、こうした趣向には功罪がある。「功」は読みやすいこと。「罪」は事実とフィクションの境界があいまいなこと。下手をすると全部がフィクション、つまり「作り話」に思える。私のように「後で調べる」人ばかりではないだろう。それでは渋沢栄一の言動は伝わらなくなってしまう。
渋沢栄一ってどんな人?と、興味が湧いた人は手に取ってみるといいと思う。少なくともこの記事を読んだ人は、「全部が作り話」と思ってしまう危険は免れるはずだから。
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