著 者:西加奈子
出版社:小学館
出版日:2014年11月3日 初版第1刷 2015年1月28日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。さらに2014年下半期の直木賞受賞作。
主人公は、圷歩(あくつ あゆむ)。歩の母親は、その人生の多くの決定を直感で成した人で、妊娠が分かった瞬間に、名前は歩だと決めていた。本書は、歩がこの世に生を受けた瞬間から37歳までの、半生を綴ったものだ。
歩の人生はその始まりから非凡だった。父親の赴任先であるテヘランの病院で左足から(つまり逆子の状態で)この世界に登場した。新しい世界の空気との距離を測りながらおずおずと。その後の人生を暗示するように。
実は非凡なのは歩ではなくて、歩の家族であり周囲の人々だ。親の憲太郎は、風貌も性格も僧侶のように穏やかな人だった。母の奈緒子は、良く言えば自分に正直、悪く言えばわがままな人だった、度外れて。姉の貴子は、この世のすべての事に怒りを感じているかのような、激しさを持った子どもだった、常軌を逸して。
物語は、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人のそれぞれの時代の歩と、その時の家族らを描く。事実を積み重ねる描写は淡々としている。そこに描かれる出来事、特に貴子が巻き起こす事件の騒々しさとは好対照だ。歩は、自然と貴子から距離をとるようになる。家族にもその他の事にも、積極的には関わらない生き方を選ぶ。
長い物語だった。貴子の言動を除いては取り立てて「事件」もなく、途中で何度か不安になった。この物語はどこに向かっているのか?と。
その不安は、下巻の半分ぐらいまで来たところで解消された。たくさんあったエピソードのいくつかが、はっきりした輪郭と共に急に浮かび上がってくる。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」というメッセージも伝わってくる。(読むのに苦労したということは全くないけれど)読み通して良かったと思う。
先に「長い」とは書いたけれど、一人の人間の半生を、上下巻の計700ページあまりに凝縮させるのは大変な作業だと思う。本書は著者の作家生活十周年記念作品だそうだけれど、それにふさわしい力作だと思う。
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