光とともに…自閉症児を抱えて(1)~(15)

著 者:戸部けいこ
出版社:秋田書店
出版日:2001年8月20日(第1巻)~2010年6月15日(第15巻)
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 「自閉症の僕が跳びはねる理由」を読んだ時に、「参考に」と言って知り合いが貸してくれた。15巻を行きつ戻りつ読んで4か月で読了。

 主人公は東幸子。幸子の息子の光は知的障害を伴う自閉症児。本書は、光が自閉症と診断された1歳半検診のころから、保育園、小学校を経て、中学2年生までの間の、家族の軌跡と周辺の出来事をマンガで描く。

 綿密な取材に基づいた作品ということで、エピソードのほとんどは実際にあったことだと思って間違いないだろう。最初の頃のエピソードには、周囲の無理解が強く表れている。「あなたの育て方が悪いから..」「虐待でもして自閉症になったんじゃないの?」近親者や医療関係者までが、鋭利な刃物のような言葉を投げかける。

 もちろん自閉症は育て方によって発症する病ではなく、先天性の脳機能障害。症状は人それぞれだけれど、例えば、聞こえ方や感じ方、理解の仕方が、障害のない人とは違う。

 周囲の雑音から自分に話しかける声を取り出せない。ガヤガヤとウルサイところは苦痛だ。触られることに過敏なので、急に手や肩をつかまれるとパニックになってしまう。「暗黙の了解」は分からない。自分の家ではいいけど外ではダメ、は教えてもらわないと分からない。分からないのにひどく叱られると、ますます混乱する。

 最初の頃のこうしたエピソードで、読者は自閉症の基本的な知識を身に付ける。その読者の理解度に合わせるように、主人公の家族の周囲には「よき理解者」や「伴走者」が現れる。視野が広がって、周囲の人々の事情も描かれるようになる。少し展望が見えてくる。

 実は私は仕事で、知的障害や発達障害を持った子どもたちの相手をすることもある。まだまだ戸惑うことが多いけれど、本書を読んだことで、うまく対応できるようになったことも多い。あいまいな言い方をしない。予定を事前に分かるようにしておく。ユラユラしたり繰り返し唸っているのは、それで落ち着くから...

 印象的な場面を一つ。物語の後半で、幸子のママ友がこう言う。「苦しい時にいつも浮かぶのは東さんなの」。彼女は、学校に息子へのいじめに対する対処を申し入れている。しかし思うように行かず、心身共に疲れた時に幸子を思い出す。そして自分を奮い立たせているのだ。

 幸子は、先生が変わったり新しい場所に行ったりすれば、そこで光に合わせた対応をしてもらわなければならない。申し入れても、「特別対応」ならましな方で「わがまま」として退けられることが多い。理不尽な扱いも受ける。それでも幸子は、夫と共にねばり強く「お願い」をする。頭も下げる。そうした姿は、周囲の人の心の支えにもなっていたのだ。たぶん私も、幸子を思い出すことがあるだろう、と思う。

 最後に。この作品が著者の絶筆となった。最終巻の2話は病床で描いたネーム(ペン入れ前の構想ノート)だけが収録されている。合掌。

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