あの家に暮らす四人の女

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論社
出版日:2015年7月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 杉並区の善福寺川が大きく蛇行する辺りにある、古い洋館に住む4人の女性の物語。帯には「ざんねんな女たちの、現代版「細雪」 谷崎潤一郎メモリアル特別小説」とある。とても楽しめた。

 女性たちの名は、牧田鶴代、牧田佐知、谷山雪乃、上野多恵美。鶴代は佐知の母でもうすぐ70歳になる。佐知は37歳で独身、刺繍作家として生計を立てている。雪乃は佐知の友人で佐知と同じく37歳で独身、保険会社に勤めている。多恵美は雪乃の会社の後輩で27歳。

 4人は佐知の曽祖父が建てた家に住んでいる。鶴代と佐知の母娘が住む家に、雪乃と多恵美が順に転がり込んできたわけで、それなりの事情がある。ともかく今は、4人で家事を分担する共同生活を営んでいる。

 日々の暮らしと会話で、女性たち、特に佐知の内面を綴る。恋愛、仕事、友情、孤独、将来。もちろん事件も起きる。けっこうショッキングな出来事や物騒なこともある。しかし、それは佐知たちの内面の変化のきっかけであって、この物語はそうした出来事ではなく、女性たちの心の方を中心に描く。

 4人の名前はもちろん「細雪」の4姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子、にちなんでいる。それぞれの性格も緩やかに関係していると思う。エピソードにも「細雪」との関連を感じるものがいくつかあった。ただし、そういったことは知っていれば「おっ!」と思う程度で、知らなくても本書を楽しむ妨げにはならない。

 佐知の曽祖父が財を成し、ぼんくらの息子が資産が目減りさせたが、鶴代が一生困らぬぐらいの貯金はある。しかし、鶴代の娘(つまり佐知)が困らぬぐらいは、さすがにない。母娘であっても、この境遇の違いは大きく、母娘のかみ合わない会話が面白かった。

 面白いと言えば、佐知の「心の叫び」が今も耳に残る。自分の作品で身を飾ってデートを満喫する女性を思い浮かべて「一針一針にわが情念を込めて、おのれらの魂に直接刺繍してやりたい。おのれらの魂から吹き出す血潮で..」いや、普段は真っ当な生き方をしている常識人なんだけれど。

 参考:エンタメウィーク:浦しをんさんインタービュー

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