著 者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2012年5月15日 第1刷 7月25日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
2012年上半期の直木賞受賞作。WOWOWでドラマ化されDVDもリリースされている。「仁志野町の泥棒」「石蕗南地区の放火」「美弥谷団地の逃亡者」「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」の5編を収めた短編集。
著者がインタビューで「新聞やテレビのニュースで大きく取り上げられることのない「町の事件」を扱う短篇集にしようと、はじめに決めました」と答えている。しかし、殺人事件も複数あって、なかなか緊張感のただよう物語が展開する。
「仁志野町の泥棒」は小学生ころの回想。友達の母親の秘密を知ってしまう。「石蕗南地区の放火」は保険の調査員が主人公。実家の目の前で火事が起きる。「美弥谷団地の逃亡者」と「芹葉大学の夢と殺人」は少しテーマが重なる。付き合う男性が災いの元になる。「君本家の誘拐」は一瞬目を離したスキにベビーカーごと子どもを誘拐された母親を描く。
5編すべてで女性が主人公。その他に私が5編に共通して感じたのは様々な形の「ずれ」。一つは「決定的に間違っているわけではない、しかし普通とは違う」という感覚。例えば「芹葉大学~」の主人公の彼の夢は「医者」と「サッカーの日本代表」になること。その夢を邪魔するものは許せない。
もう一つは、価値観の「ずれ」。例えば「君本家の誘拐」での、不妊に悩んだ末に娘を授かった主人公と、海外ブランドの有名店に勤める高校時代の友人。悪意はない無邪気な言葉が、相手の心に小さな嵐を起こす。
こうした「ずれ」が生む空気も緊張感につながっている。直木賞受賞作だけあって、物語への引き込み方が巧みだった。ただ、こんな不穏な物語が受賞していたとは思わなかった。
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「鍵のない夢を見る」辻村深月
普通の町に生きる、ありふれた人々がふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇。現代の地方の姿を鋭く衝く短篇集
第147回直木賞受賞作品。連作でなく五人の女性の五つの物語で構成された短編集です。
とある地方都市に生きる女性たちの、ささやかな夢と日常を描いていく始まり方です。
ひきこまれやすい導入部分から、風景も描きやすく読みやすかったです。
人の感情の細かい部分をすくいあげ……