安倍政権の裏の顔 「攻防 集団的自衛権」ドキュメント

著 者:朝日新聞 政治部 取材班
出版社:講談社
出版日:2015年9月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、序章を除くと2012年暮れの第2次安倍政権発足から、2014年7月の集団的自衛権の行使を認める閣議決定までの、約1年半の与党の動きを追った記録。タイトルからは、何やら陰謀めいたものや秘密の暴露を期待してしまうが、そういったものはない。

 「秘密の暴露はない」というのは、秘密にすべきことは書かれていないからだ。本書は「オンレコ」を原則とした取材を基に執筆されている、つまり取材対象者が「公開していい」と判断した内容だということ。著者が朝日新聞の取材班というだけで、否定的な見方をする人もいそうだけれど、これは与党の議員や関係者が話したことなのだ。

 読んで多くのことが分かったし、多くのことを思った。今回は本の感想・書評というより、この本を読んで思ったことを2つ述べる。1つめは「集団的自衛権の行使容認なんて必要なかったんじゃないか」ということだ。

 そう思った理由は次の一言に集約されている「「集団的自衛権行使に必要な事例を探せ」と言われたので、ひねり出した」。これは公明党の勉強会での、内閣官房の役人の発言。ここで「ひねり出した」という事例が、あの「赤ちゃんを抱いた母親」のイラストのパネルを使って安倍総理が説明したものだ。

 順序が逆なのだ。解決すべき問題への対処の必要という「理由」があって、集団的自衛権の行使容認という「結果」がある、というのが正しい順序だ。「結果」が先「理由」が後では本末転倒。これでは国会の答弁が混乱するはずだ。後付けの「理由」は本当に必要なのか?、それが必要でなければ「結果」も必要ない。

 思ったことのもう1つ。「「結果を出す」ことへの強迫観念」。これには少し説明が必要だと思う。

 「平和の党」の公明党は、集団的自衛権の行使を認めない立場だったが、ブレーキ役を自任し、連立離脱を封印して与党に残る。ある時から「落としどころ」を探るようになり、結果として「歩み寄って」合意する。ただし「歩み寄る」うちに一線を越えて、行使容認NOからYESへ180度変わってしまっていたわけだ。

 これについて「与党にしがみついて魂を売ってしまった」的なことを言われるけれど、それは違うらしい。主張をぶつけ合うだけでは、一歩も前進しないで「結果」がでない。実社会では「過程」より「結果」が重視され、政治の世界では特にそうだ。公明党は、だから「結果」を求めてしまった、そういうことだと思った。

 しかし、今回は「結果」を求めて「落としどころ」なんか探っちゃいけなかった。「過程」はどうあれ「結果」として、「魂を売ってしまった」感は否めないし、多くの民意に背いているからだ。

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