公共図書館の論点整理

書影

著 者:田村俊作、小川俊彦
出版社:勁草書房
出版日:2008年2月20日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少し前に「本が売れぬのは図書館のせい?新刊貸し出し「待った」」というニュースを見て、このことについて調べてみようと思った。探せば思いのほか多くの資料が見つかり、本書もその一つ。

 本書は2008年の発行。公共図書館に関する報告としては、1963年に「中小都市における公共図書館の運営」(略称:中小レポート)、というものが出ていて、本書は折に触れてこの報告書に言及しながら、それ以降の公共図書館に関する言論を、いくつかの論点ごとにまとめたもの。

 冒頭に書いた「本が売れぬのは~」に直接関係する論点として、第一章「無料貸本屋」論がある。ここには「中小レポート」と「市民の図書館」という1970年出版の書籍を引きながら、「貸出」を図書館サービスの中核とした運営に対する、様々な意見がまとめられている。

 その他の論点として「ビジネス支援サービス」「図書館サービスへの課金」「司書職制度の限界」「公共図書館の委託」「開架資料の紛失とBDS」「自動貸出機論争」が、それぞれ一章を割いて論じられている。

 本書は2008年の時点でそれ以前を振り返ったもので、私はそれを7年後の2015年から眺めていることになる。その視点で言うと「2008年時点の論点(敢えて言うと課題)を、そのまま引きずって現在に至っている、という感じを強く受けた。

 今回の「本が売れぬのは~」は「無料貸本屋論」からの流れが続いたものだし、「公共図書館の委託」での懸念は「TSUTAYA図書館」という形で現実のものになった。「課題を認識しながら変えられなかった」と、公共図書館の力不足を言うのは簡単だけれどそれは酷だと思う。

 公共図書館の課題は、大きな流れの中にあるように思う。これに逆らうのはなかなか骨折りだろう。ただ、そこを何とかしないといけないんじゃないかとも思う。20年後30年後の出版・読書が、少なくとも今と同じぐらいには健全であるためには。

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