著 者:宇江佐真理
出版社:文藝春秋
出版日:2000年4月10日 第1刷 2015年3月25日 第23刷」
評 価:☆☆☆(説明)
著者の宇江佐真理さんは、今年11月7日にお亡くなりになりました。合掌。
著者の作品は「卵のふわふわ」という作品をずい分前に読んだ。それまでに私が知っていた、武士が主人公の「時代小説」とは違っていたので、印象に残っている。その後も時々思い出していたのだけれど、他の作品を読むには至らなかった。
著者の訃報を聞いて、改めて読んでみたいと思い手に取った。本書は著者のデビュー作で、その後の代表的なシリーズとなった「髪結い伊三次捕物余話」の第1作。
時代は江戸時代。舞台は江戸・深川あたり。主人公の伊三次は「廻り髪結い」と言って、自分の店を持たないで客のところに出向いていく髪結いを生業にしている。読んでいるともっと年嵩に感じてしまうけれど、まだ25歳だ。
伊三次は、北町奉行所の同心の不破友之進に恩義があり、今は友之進の小者としても働いている。そんなわけで髪結いの身で「捕物余話」がシリーズになるほどたくさん生まれることとなった。
本書には表題作の「幻の声」をはじめとして5つの短編が収められている。殺人、放火、泥棒など、それぞれの短編で事件が起きる。「捕物余話」というシリーズ名で既に明らかだけれど、その事件の解決に伊三次らが絡む。
特徴的なのは、どの事件も人情話になっていること。登場人物がみんな「弱者」として懸命に生きていて、犯人にさえ同情してしまいそうになる。懸命に生きているのは、伊三次も友之進も同じで、伊三次の「思い女」である、お文も含めて、少し哀しい過去を抱えている。
これはまたよいシリーズに出会った。14冊が既刊だそうだから、しばらく楽しめる。今、気が付いたのだけれど「みをつくし料理帖」の高田郁さんも女性、「しゃばけ」の畠中恵さんも女性。私と女性が描く江戸時代は相性がいいのかもしれない。
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