里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く

著 者:井上恭介 NHK「里海」取材班
出版社:株式会社KADOKAWA
出版日:2015年7月10日 初版発行 8月10日 再版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「里山資本主義のパクリ?」タイトルを見てこう思う人もいるだろう。私もそう思った。次に、著者が同じNHK取材班だと気付いて「あぁ二番煎じか?」と考える。確かに「里山資本主義」がなければ、本書は出なかったかもしれない。しかし、パクリでも二番煎じでもないことは読めば分かる。

 本書の主な舞台は瀬戸内海。岡山から広島にかけての海だ。そのひとつの岡山県の日生(ひなせ)。縄文の昔から漁業を生業にして来たと言われる、瀬戸内有数の漁業の町だ。

 その日生の海が、1970年代に「死んだように」なり、みるみる漁獲高が減るという事態に陥る。それから試行錯誤が始まり、なんと30年におよぶ地道な努力によって、ここ数年になってようやく「以前の海」が戻って来た。

 実を結んだのは、かつては船のスクリューに絡んで邪魔者扱いだった「アマモ」という藻類の復活だった。水質の改善から取り組んで取り戻したアマモの森が、小さな生き物たちを呼び寄せ、魚たちの産卵の場所となり「海のゆりかご」の役割を果たしていた。

 本書は、ここに至る経過と、現在の海の様子を実に活き活きと描く。著者がテレビマンであるからか、その映像が目に浮かぶようだ。

 最初に講じた「稚魚の養殖と海への放流」という、「高度経済成長型」の対策はうまく行かなかった。「原料さえ供給し、機械のメンテナンスさえぬかりなくやれば、製品は予定どおり生産される」という「人工の世界」とは違うのだ。

 必要なのは「海のゆりかご」といった「命のサイクル」を修復して回すことだった。このように「人手が加わることにより生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」のことを「里海」という。「里海資本論」は、「循環」と「共生」によって、「生産」と「消費」のパターンを持続可能なものに変え、有限の海(世界)に無限の生命の可能性を広げるものだ。

 ちなみに「sato-umi」は、2013年にトルコのマルマリスで行われた、海洋の環境保全の国際会議で採択された「マルマリス宣言」に組み込まれている。

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