著 者:佐々涼子
出版社:早川書房
出版日:2014年6月25日 初版 7月25日 7版発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
本書は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けて完全に機能停止した「日本製紙石巻工場」の復活の記録。
1平方キロメートル(約33万坪)もの広大な工場が津波に呑み込まれ、近隣から流れ込んだガレキに埋まってしまった。その日、何があったのか?それからどうなったのか?丹念に広く関係者を取材した、優れたルポルタージュになっている。
先の見通しがまったく立たない中で、工場長が事業の再開を決意する。しかも「半年」と期限を切った。半年でまず1台動かす。甚大な被害と荒涼とした光景を前に、多くの人が絶望していた時だ。その場に居た全員が「無理、絶対無理」と思った。
これ以上の内容をここで説明してしまうのはもったいない。もし興味が湧いたら、ぜひ読んで感動を味わって欲しい。それより読んでいて痛切に感じたことがあるので、そのことを。私の暮らしは誰かの仕事が支えている、ということだ(缶コーヒーの宣伝みたいだけど)。
今、私が手に持っている本は紙でできている(当たり前だ)。この紙はどこかで誰かが作ったものだ(これも当たり前だ)。当たり前すぎて私たちは意識さえしていない。
日本製紙は出版用紙の約4割を担っているそうだ。その主力工場が機能停止すれば、出版業界への影響は必至だ。実際にそうだった。電子メディアに押されてはいるが、新聞・雑誌・書籍など「紙」は、情報を伝える媒体として、私たちの暮らしにまだまだなくてはならないものだ。
「なくてはならないもの」私たちの方にはそんな意識はほとんどなかったけれど、製紙工場の技術者の皆さんは、そうした矜持を持って働いていらっしゃった。だからこそこの「奇跡」は起きた。そう思う。
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(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)
西日本在住の人間として、東日本大震災で被災しなかった者として、
そして「紙の本」を愛する人間として……本当に読んでよかった、
読まなければならない本だった……と思います。
この本の存在を教えていただいて、感謝! です。
引き続いて『想像ラジオ』も読んでみようかな……と
思っています。ありがとうございました。
REIさん、コメントありがとうございます。
お役に立てたようで、私もうれしいです。
「被災しなかった者として」という感覚は私にもあります。
体験していないなりにすべきことがあるんじゃないか?
そんなことを考えることがあります。
確かに、文章の分量としては、すぐ読めましたが
重いいろいろなものが詰まった本でした。
私も、本が紙でできているという、基本的なことについては
当たり前すぎて、どんな紙だとか深く考えたことはありませんでした。
洋紙に関しては、パルプで工場で機械で作るのでしょ、
和紙とは手のかけかたが全然違うよね、とすら
思っていました。。。
紙の本のほうが好きだと言いながら。
三浦しおんの、「舟を編む」に辞書の紙を選ぶ話が出てきましたね。
あぁそういえば、とそれをちょっと思い出したりしました。
被災のあとの話は、言葉がありません。
レビさん、コメントありがとうございます。
紙に限らず、どんなものもそれを作っている人がいる、
ということは、意識していないと忘れてしまいますね。
なくなって初めて気がつくことは他にもありそうです。
「ぬめり感」の話ですね。実は私も思い出しました。