国ってなんだろう?

編  者:早尾貴紀
出版社:平凡社
出版日:2016年2月18日 初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 サブタイトルは「あなたと考えたい「私と国」の関係」。安倍首相が、「在任中に成し遂げたい」と発言されたこともあり、憲法改正が熱を帯びてきた。そんな時に本書を目にして、興味が湧いたので手に取ってみた。「憲法改正」というのは「国のあり方」を考えることだからだ。

 本書は「中学生の質問箱」というシリーズの1冊。専門家の先生が中学生の質問に次々と答える、という体裁で話が進む。「「国民国家」はいつはじまったの?」のいう質問からスタートする。とても中学生の質問とは思えないけれど、まぁいいことにしよう。

 今の「国」のあり方は、「国民国家」と呼ばれるもので、その国に住む住民を「国民」という一つのまとまりとして統合することで成り立つ。その端緒は18世紀末のフランス革命にある。本書は、このように「そもそも」の歴史から「国」を論じ、その後、ホロコースト、イスラエルの誕生と、まずは西欧の状況をまずは説明する。

 続いて、日本における「国民国家」の誕生と言える「明治維新」から、太平洋戦争とその後までを俯瞰する。最後に、現代の「国」のあり方を論じるなかで、中東の問題、憲法の問題、原発事故のことなどを幅広く取り上げる。「国」って何?という問いに対する答えは、必ずしも明確にはなっていないけれど、これで輪郭はつかめるようになる。

 全体を通して繰り返されるのは「国民」とは誰か?ということだ。「日本人」という集団が自明のものとして存在するように錯覚しがちだけれど、そうではない。「日本人」はどの範囲を指すのか?の線引きは難しい。特に注意を必要とするのは、日本人の範囲を決めることは、それ以外の人を排除すること、という点だ。

 「国」から排除の対象とされれば、権利が奪われ何の保護も受けられなくなる。「国民」は、もう少し緊張感を持って「国」に対する必要があるようだ。「国は経済や国の安全保障政策を優先して、それに合致しない個々人は、国民も含めて守る気がありあません。」と言い切る。原発事故がその一端を見せた。

 最後に。フランス革命から、ホロコースト、福島の原発事故、イスラム国まで、本書で取り上げるすべての出来事は、実はつながっている。その中で日本の立場は必ずしも良くない。人によっては、反日、自虐史観の塊だと映るだろう。私はそこまでではないけれど、何か前のめりなものを感じた。しかし、持論とは違う論説も一旦は受け止めねばならない。

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