下り坂をそろそろと下る

編  者:平田オリザ
出版社:講談社
出版日:2016年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書を手に取ったのは「下り坂をそろそろと下る」というタイトルに共感を覚えたからだ。著者は、日本は大きな成長という上り坂をもう登らない、と言う。これからは長い下り坂を下る「後退戦」を「勝てないまでも負けない」ことが大事だと。

 私もウスウスそう思っていた。現実を直視すれば「成長」を前提にした政策や制度が、いかに空疎で弊害のあるものか分かる。大小様々な事業が「利用(需要)が増える」計画を立てることでGOサインが出る。しかし、まったくその通りにはいかない。だから、考え方を変える必要がある。

 また著者は、私たちはこれから「日本はもはや.」に続く、3つの寂しさに耐えなければならないと言う。「工業立国ではない」「成長社会には戻らない」「アジア唯一の先進国ではない」。特に3つ目の寂しさに耐えられないことがヘイトスピーチなどに現れ、最悪のケースでは再び「銃をかつがせる」ことになる。

 少し注意しておくと、本書の大部分はこのような著者の主張をストレートに伝えたものではなく、演劇による教育や地域振興など、著者が各地で積んでいる実績の報告だ。「文化」というキーワードによって「下り坂」論とつながっているのだけれど、その読取りにはひと手間が必要だ。

 最後に。著者が目指す社会を表した言葉が印象的だったので書いておく。皆さんはどう思われるだろう?読んですぐには肯定できないかもしれないけれど、私もこういう社会がいいと思う。

●生活保護世帯の方たちが平日の昼間に映画館に来てくれたら「生活が大変なのに映画を観に来てくれてありがとう」という社会。
●子育て中のお母さんが、昼間に、子どもを保育所に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会。

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