言ってはいけない 残酷すぎる真実

編  者:橘玲
出版社:新潮社
出版日:2016年4月20日 発行 6月5日 7刷
評 価:☆☆(説明)

 本書に書いてあることは、とても不愉快だ。だから「言ってはいけない」のだ。「アルコール中毒も、精神病も、犯罪さえも遺伝する」「「見た目」だけで人生は決まる」「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」。もっと不愉快なことも書いてある。

 つまり「私たちは「努力」や「環境」によって、何者にでもなれる」という、社会の大前提を否定している。だから不愉快に感じる。「遺伝」や「見た目」という、自分でどうにかできないことで人生が決まるのなら、誰が努力するだろう。「犯罪者の子どもは犯罪者」などと言い出したら、人権もなにもあったものじゃない。

 ただし、著者の主張に一理あることは認める。「顔がお母さんにそっくりだね」「お父さんに似てスポーツが得意だね」という話に違和感はない。形質や運動能力が遺伝するのに、性質だけは遺伝しないと言い張るのは確かに不合理だ。また、本書には裏付けとなる「調査」が「エビデンス(証拠)」として大量に提示されている。著者は実に念入りなのだ。

 それでも私は蟷螂の斧を振りたい。「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」について。実感とあまりにもかけ離れている。そういうことを鵜呑みにすることはできない。著者の主張にどこか問題があるはずだ。そしてそれが分かった(と思う)。

 もともとこの主張は、「一卵性双生児」を対象とした調査の計量分析の結果で「(家庭などの)共有環境の影響がゼロ」と出たことによっている。同じ親に育てられた双子と、養子などで違う親に育てられた双子は、同じぐらい性格が似ていて(違っていて)、有意な差がないらしい。

 しかし、この調査で分かったのは「同じ親が育てても、同じ性格に育つわけではない」ということだけじゃないのか?こんなことは、2人以上子どもがいる親なら誰でも知っている。なぜなら、著者自身も言うように「子どもは親の思いどおりにはぜんぜん育たない」からだ。どう育つかは子どもによって変わってくる。

 「思いどおりに育たない」からと言って「影響を与えていない」わけじゃない。2つのことは別のことだ。つまり、著者の主張の問題は、調査結果の「有意な差がない」を「影響を与えない」と読んだ「解釈」にある。世間の逆を言えば話題になるので、敢えて読み違えたのかもしれない。そうでないなら、その解釈で現実を説明できるか検証してみた方がいいと思う。

 そういうわけで、「思いどおりに育たない」ことに悩みながらも、これからも子育てに精を出そう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です