新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか

著 者:北野武
出版社:幻冬舎
出版日:2015年9月10日 第1刷 2015年9月25日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 北野武さんが「道徳」についてツッコミを入れた本。明確には書かれていないけれど「道徳の教科化」という背景がある。2018年に小学校で、翌年には中学校で「特別の教科」としての指導が始まる。

 もうひとつ。著者は何か具体的な道徳の教材を読んで、本書を記している。もしかしたらその教材を読んだことが、本書を書いたきっかけだったかもしれない。その教材は、おそらく文部科学省が制作した「私たちの道徳」だ。

 全部で5章42項の短めの文章が収録されている。第一章のタイトルは「道徳はツッコミ放題」。例えば「なぜ本を読みながら歩いていた二宮金次郎は銅像になって、スマホ片手に歩いている女子高生は目の敵にされるのか」なんていう項目がある。そういう芸風なのか性格なのか、皮肉で斜に構えた文章が続く。

 そんな芸風(性格?)の著者が、一定の評価を受け尊敬もされているのは、映画監督としての実績の他に、辛辣な皮肉の中に一片の真実が光るからだろう。例えば「道徳を教えるのと、良心を育てるのは別のことなのだ」なんて言葉は至言だと思う。「公共心を芽生えさせるなんて目的で、道徳を押しつけてはいけない」は今の社会に必要な警句だろう。

 最後に。サブタイトルの「いいことをすると気持ちがいい」について。著者が読んだ教材に、お年寄りに席を譲る、という場面のイラストに「いいことをすると気持ちがいいよ」と書いてあるそうだ。(「私たちの道徳」の32ページにもそう書いてある)。これを「席を譲るのは、気持ちがいいという対価を受け取るためなのか」と、ひどくご立腹のようだ。

 私としては、著者の言いたいことは分からないでもないけれど、これに拘泥し過ぎだと思う。他の部分でも何度も触れているし、サブタイトルにまでしているし。でも、実際のページを見ると、詩の中の一行に過ぎないし、「気持ちいいからいいことをしよう」と書いてあるわけではない。

 付け加えると、著者自身も「いいことをすると気持ちがいい」ことは自体は否定していない。私も、人に親切にしたり、何かをしてもらった時にお礼を言ったり、困っている人を助けることができたりした時には、「気持ちいい」と感じる。そういうことを子どもたちにも伝えたいと思う。

参考:道徳教育用教材「私たちの道徳」について:文部科学省

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です