陸王

書影

著 者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2016年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」「下町ロケット2」「ルーズヴェルト・ゲーム」など、中小中堅企業の製造業の底力を描いた「経済小説」に定評のある(もちろん「半沢直樹」でも有名な)著者の最新刊。

 今回の舞台も製造業。ただし今回は、ロケットやエレクトロニクスといった「硬い」素材ではなくて、柔らかい素材を使う企業。付け加えれば「柔らかくて強い」素材を使う。今回の舞台は「足袋」の製造メーカーの「こはぜ屋」。

 「こはぜ屋」は1913年創業、100年を超える老舗だ。洋装が主流になって久しいが、綿々と足袋を作り続けてきた。幸いなことにここまではやって来られたが、売上の減少が止まらない以上、いずれは限界が訪れるのは明らかだ。

 そんな「こはぜ屋」の社長の宮沢紘一が、新規事業として考えたのが「ランニングシューズ」業界への進出だ。健康のために走るアマチュアランナーからトップアスリートまで、競技人口は多い。足袋とシューズだから、全く関係がないわけではない。現に「こはぜ屋」にはかつて「マラソン足袋」という商品があった。

 物語は「こはぜ屋」がランニングシューズ業界に挑む一進一退が描かれる。「全く関係がないわけではない」ぐらいの関係で、何とかなるほど、ビジネスは甘くない。陸上競技はすでに巨大資本が研究開発にしのぎを削る状態だからなおさらだ。

 それでも「一退」してもそこから「一進」する。著者のこれまでの作品と同じく、事業にかける「熱量」と「技術」が重要な要素となって、「こはぜ屋」は前に進む。もうひとう忘れてはならないのは「誠実さ」か。

 著者のこのジャンルの作品の面白さには安定感がある。「マンネリ」ではなく「安定」だ。

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